掛川市ではスキルや経歴よりもヒューマンスキルを重視!二人三脚で取り組んでくれるパートナーを募集
複業クラウドでは過去に400を超える複業人材が自治体に登用されてきました。しかし、そのプロジェクトのほとんどが“アドバイザー”を募集しているなか、静岡県掛川市では“パートナー”を募集しました。
今回は、あえてパートナーという言葉を使って複業人材を募集した背景や、選考でスキルや経歴よりもヒューマンスキルを重要視した理由についてお話を聞きました。
*インタビューさせていただいた職員の方のプロフィール(インタビュー当時)
*今回選出されたアドバイザーのプロフィールはこちら
“アドバイザー”ではなく“パートナー”を募集
山本氏:
掛川市が誇る歴史的建造物の価値を保ちながら有効活用する方法を検討したいと考えたからです。
掛川市には江戸時代末期の屋敷構えが残された「松ヶ岡」や初代掛川市長を輩出した「鈴木家住宅」など歴史的に価値のある建造物が多く残っています。これらを次の時代に継承していくために、市役所職員と市民ボランティアが力を合わせて保全活動を行ってきました。
しかし、文化財保護法の改正により、保全するだけではなく、観光や産業などの別の分野でも活用することが求められるようになりました。そのため市役所職員と市民ボランティアだけではそれらの分野に関する知見に乏しく、一緒に検討してくれる複業人材を募集することになりました。
山本氏:
私たちは文化財を保護することが業務の部署なので、様々な手段を検討しなければいけません。しかし、自治体職員だけではアイディアの幅が限られていたり、アイディアは出ても形にするまでの筋道が分からなかったりしました。
例えば、過去に文化財活用のための資金を生み出すために、歴史的建造物に宿泊できるプランを作成しようという案が出ました。しかし、プランを作成するためにはどんな手続きが必要で何から手を付けて良いのか分からず、実現には至らないケースがほとんどでした。
プランの作成には、宿泊に関する法的な知識をはじめとして手続きまでのプロセスを円滑に実行できる行動力、お客様の目線で企画することができる接客・おもてなし経験、さらにその事業を行ったことで収益を出すことが求められます。そのため、この分野の知識やスキルを持った複業人材の力を借りれば、今まで出てきたアイディアを実現することが出来るのではないかと思い、公募することを決めました。
山本氏:
私たちはアドバイザーは進むべき道を示してくれる人、「パートナー」は進むべき方向を共に模索してくれる人と定義づけました。
今まで歴史的建造物の保護活動を続けることができたのは、市民ボランティアの方々のご協力があったおかげなので、今回のプロジェクトにも関わってもらおうと思っていました。そのため、現地に足を運び、市民の方の意見や想いを尊重し、伴走支援してくれる人と一緒にプロジェクトに取り組みたいと考えていました。
掛川市が求めていた人物像は、実績豊富で適切なアドバイス、つまり「正解」をくれる人よりも、職員や市民ボランティアの意見や想いを受け止めながら、二人三脚で具現化できる人でした。そのため、求人のタイトルに「パートナー(伴走者)」という言葉を選んで使いました。
良きパートナーを見つけるための選考基準
南氏:
自分たちが持っていない観光の分野に関する経歴・実績を持っていて、想いに共感してくれた人が好印象でした。
観光業での経験を持っていることは今回のプロジェクトでは欠かせない要件の一つでしたが、企画や情報発信に関するスキルに加えて、現場での「接客・おもてなし」経験の豊富な人が魅力的でした。理由は、日々観光客(お客様)の前で対応されている方なら、どのような魅せ方をすれば求心力が高まるのかを知っているのではないかと期待したからです。
今回就任していただいた方はホテルマンとして宿泊業界に従事し、その第一線で活躍されてきた方です。また、宿泊地周辺の地域の魅力や暮らしてきた人の想いを活かしたコンテンツを企画し多くの観光客に伝えてきた経験もあるそうです。
山本氏:
今回応募していただいた方々はどの方も魅力的だったのですが、そのなかでも会話をしていていつの間にか引き込まれてしまうような物腰の柔らかさが決め手になりました。就任していただいた後、私たちや地域の方々と一緒にプロジェクトを進めていく姿を連想することができました。
また、面談選考では、書類上では推し量ることができない豊富な現場経験に裏打ちされたヒューマンスキルを重要視しました。今回のプロジェクトの特性上、パートナーの方に現地に足を運んでいただいたり、市民ボランティアと意見交換をしてもらったりする機会を多く想定していたからです。私たちの意見や想いを受け止めて、さらにそれを昇華させるために惜しみなく力を貸してくれる人と働きたいと考えていました。今回就任していただいた方は、物腰の柔らかさと親身な姿勢も合わせて、まさに私たちが求めていた人物像にぴったりでした。
南氏:
複業人材の方が将来的に独立も視野に入れていて、そのための実績を作りたいという思いから応募したという話を聞けたことです。
自治体によって考え方は様々であると思いますが、私たちは複業人材の方が何をメリットに感じてプロジェクトに応募したのかを素直に話してくれたことがプラスの印象に繋がりました。理由は、今回のプロジェクトによって自治体や地域の方々にメリットがあるというのはいうまでもなく、複業人材パートナーの方にも新たに得るものがあることが重要と考えていたからです。プロジェクトに関わった人がそれぞれにステップアップや新たな取り組みを行えることが掛川市の「歴史的建造物パートナー」の目指すところなのです。
山本氏:
掛川市ではプロボノで複業人材を募集したので、正直に申し上げると金銭的なメリットはありません。しかし、面談選考でお会いしたほとんどの方は、自身のキャリアの実績をつくったり、今持っているスキルを活かしたりしたいので応募したとお話してくださいました。
今回のプロジェクトを通してパートナーの方にとってその一助となれたら私たちもプロジェクトに取り組みやすくなります。また、これを機会として掛川市のことをもっとよく知ってもらい、今後の活躍に今回の経験を活かして当市と関わってもらえることがあれば何より嬉しいことだと私たちは考えています。
どんなスキルでも必ず行政の役に立つ
山本氏:
想像していた以上に、今回のプロジェクトに本気で向き合ってくれるという印象です。
11月に就任していただいてから週に1回のペースで打ち合わせを行い、12月には初めて現地にお越しいただきました。市の指定文化財の松ケ岡や国の登録文化財の鈴木家住宅の2つの文化財建造物に関して市民ボランティアの方、所有者、複業人材、職員で意見交換をしました。そのときパートナーの方が、「格式の高い良い建物だからこそ収益だけを考えたアクションは起こしたくない」と言っていたことが印象的です。
この一言が、初めてお会いした市民ボランティアの方からの、「この人は真摯に私たちの想いや伝統ある建造物に本気で向き合ってくれている」という信頼感に繋がりました。打ち合わせは数時間にも及ぶほど盛り上がりました。
パートナーの方が築いてきた歴史とその保護に携わる多くの方の想いを尊重した活用方法を真剣に検討してくださる姿を見て、この方に就任して頂いて良かったなと心から思っています。
南氏:
市役所はゆりかごから墓場までという言葉通り、人生のさまざまな場面で市民の生活をサポートしています。業務の幅が広いため、どのようなスキルでも活かせる場面があります。
例えば今回就任していただいた方は、ホテルマンとしての経験をプロジェクトに活かせると思い、応募してくださいました。ホテルマンの経験は一見自治体では、役立たないように思うかもしれません。しかし、多様なニーズを持った宿泊客のひとりひとりの要望を丁寧にくみ取り、接客という形でアウトプットする行為は、住民の様々な課題や要望に対応する自治体職員の公務にも通ずるものがあります。複業人材の方が市民ボランティアから話を聞く際の様子などから、自治体職員が住民対応するうえでのマインドも学べたと思います。
自治体複業に挑戦することをスキルや経験に自信が無いために躊躇している人がいるなら、まずは業界がかぶっている(今回ならば、観光業界)分野から応募してみて欲しいです。
山本氏:
通常、行政が外部人材の力を借りるときは、報酬分の予算を獲得するために半年〜1年前かけて業務内容や稼働時間を計画したうえで、ようやく雇用契約が締結できます。しかし、複業クラウドを通じた外部人材の活用はプロボノでのアドバイザー登用なので、本来必要な行政特有の計画や手続きが必要なく、行政職員も複業人材もハードルが低い状態でプロジェクトをスタートすることができます。
もし、自治体複業に興味を持っている人がいたら、自分のスキルを腕試しをする場として積極的に応募してくださると嬉しいです。
山本氏:
時代の変化により自治体や所有者の力だけで歴史的建造物の伝承は難しくなってきています。今回、複業人材の方とのご縁があり、新しい知見を取り入れることができました。まだ活動の途中であり、今期でどこまでの具体的成果が出るかは分かりませんが、文化財の保全という分野の先駆的な事例になるようにパートナーと一緒に頑張っていきたいです。
また、私自身、民間企業にお勤めの方と働くことは貴重な経験です。仕事の取り組み方や姿勢など、今後の業務に活かせる学びをパートナーから吸収していきたいです。
南氏:
先ほども話しましたように、今回のプロジェクトは関わった人がそれぞれに目標や課題に対し前進することを一つの目的としています。
今回就任して頂いた複業パートナーの方については将来的に独立することも視野に入れた自治体複業への挑戦だと思います。半年間親身になって関わってくださった複業人材の方へ私たちからの「恩返し」としては小さいかもしれませんが、一つの自治体が有する文化財建造物の保存・活用に携わりながらこの地で築いた信頼と共に、自分のポートフォリオに掲載できるような実績を今回プロジェクトで作っていただけたら、私たちも自分ごとのように嬉しいです。
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