【セトラーがサポーター企業に学ぶ】世界で輝く姿が地元の活力になる。シュゼット・ホールディングスが目指す新たなステージとは
皆さんは「お菓子」ときいて心に浮かんでくる思い出はありますか?
誕生日や入学卒業のお祝い、何気ない日の自分へのご褒美、感謝や大切な思いを伝えるときのプレゼント・・・
幸せな瞬間とともに日常を彩るお菓子の思い出があるという方も多いのではないでしょうか。
人生の様々な場面に寄り添うお菓子を通して「生きかた」もつくっていきたい。
そんな思いで日々世界中の方々へお菓子を届けているのが、「アンリ・シャルパンティエ」をはじめとするブランドを経営するシュゼット・ホールディングスさんです。
今回のnoteでは、アナザー・ジャパンのサポーター企業でもあるシュゼットさんから伺った、事業にかける思いやお菓子作りのこだわり、そして地元である兵庫県とのかかわりについて綴っていきます。
取材には、1期生の山口と2期生の兵庫県出身鈴木の2名で伺いました。
兵庫県西宮市にある本社の前につくと、お菓子の幸せな香りが鼻をくすぐります。
甘い香りに緊張していたからだもほぐれ、私たちはワクワクしながら会社を訪ねました。
コロナをきっかけにアップデートした企業理念
今回お話を伺ったのは、シュゼット・ホールディングスの湯川修さんです。
1969年、兵庫県芦屋市で生まれた喫茶店、アンリ・シャルパンティエからシュゼットさんのお菓子作りの歴史は始まりました。社名の由来にもなったクレープ・シュゼットというお菓子は、オレンジ果汁でクレープを軽く煮て、グランマルニエというお酒でフランベをしてつくります。創業者である蟻田尚邦さんはそのフランベの青い炎に魅せられ、長きにわたり「たったひとつのお菓子から、心ときめくシーンを演出する」という企業理念を掲げてきました。
湯川さん「会社は法人で、理念は言わば人格です。人の性格がコロコロ変わることがないように、会社の理念も本来はそう変わるものではありません。しかし、2020年の新型コロナウイルスによる社会の変化がきっかけで、一度自分たちの理念を見直してみようという事になったんです。コロナ渦でさまざまな行動が制限される中、我々もオペレーションを工夫しながら売上をつくっていこうと必死でした。ただ、目の前のことに必死になる中でこれを続けていった先に何があるんだろう、何を目指していくんだろうということが今のままでは不明瞭なのではないかという課題が浮かび上がってきたんです。」
これまで大切にしてきたお菓子作りへのこだわりや想いはそのままに、その先の方向性をしっかりと指し示していく。そんな理念のアップデートへの挑戦が始まりました。
湯川さん「社外の方からもお力を借りながら話し合う中で、「シュゼットさんって面白いことされてますよね」と言っていただけることが多かったんです。ただ、そうした想いを持って取り組んできたことを働く従業員やお客様に対して伝えられていないんじゃないかということに気がついて、それをきちんと言葉にしようということになりました。そうしてできた私たちの使命(Mission)が『菓子と生きかたをつくる』ということです。」
湯川さん「一見すると、僕たちが作っているのはお菓子です。お菓子というのはいわゆる嗜好品で、マリーアントワネットでもなければパンの代わりにケーキを、なんてことにはなりません。ではなぜお金を出してお菓子を買っていただけるのか。たとえばお誕生日やクリスマスをケーキでお祝いするとか、結婚の挨拶の時にお菓子をもっていくだったりとか、辛いことがあって相談するときに僕たちのケーキを食べながら相談するとか。お菓子そのものだけではなくてその先にある「こと」のためにお菓子はあるんじゃないかと思うんです。食べる方の人生に寄り添う、生きかたをつくるお菓子を届けることこそ、私たちが最も大切にしたいことです。」
アップデート後は全従業員へのワークショップを行い、企業理念への理解を深める活動も行ったそうです。
湯川さん「店頭で販売しているスタッフの嬉しい変化もありました。もちろんそれまでもお客様に対して真摯に向き合っていたのですが、改めて「私にとっては今日来る300人のうちの1人でもお客様にとっては1/1の接客だ」と気づくんです。お客様が100人いれば100人、ケーキを買いに来た理由はそれぞれ。だから販売するメンバーも企画するメンバーも、こういうお客様のこういう価値につながるんじゃないかということを考えています。お客様から感謝のお手紙やメールをいただけると、少しでもお客様の生き方にお菓子がつながったと感じられて嬉しいです。」
「生きかた」をもつくるお菓子へのこだわり
伺った本社の隣には「スタジオ」とよばれるお菓子の工場が隣接しています。
今回特別に中に入り取材させていただきました。
私たちが圧倒されたのは、その丁寧さと効率のバランスです。
①丁寧なお菓子づくりは素材へのこだわりから
日本、世界とシュゼット・ホールディングスがお菓子を届けるお店は約150店舗。
当然のことながら小麦粉や卵など、多くの材料が必要になります。
しかし、スタジオの倉庫に備えておくのは最大でも3日分の材料まで。
そうすることで素材の新鮮さを保つことができるだけでなく、材料の無駄も減らすことができるのです。
②看板商品フィナンシェの秘密はアーモンド
代表ブランド「アンリ・シャルパンティエ」の看板商品と言えばフィナンシェ。世界で一番売れているフィナンシェとして10月1日は「芦屋のフィナンシェ世界一の日」と認定されているほどです。アーモンドは、まさにその味と香りの決め手といっても過言ではありません。粉でなく豆で仕入れて自社で挽くことで最大限その香りを引き出します。さらに、保存中はもちろん輸送中から8℃に温度を保つ徹底したこだわり。
そんなアーモンドが練りこまれた生地はオーブンや時間を細かく調整して焼き上げられます。「浮き」と呼ばれる表面の裂け目は香りを楽しむおいしさの証です。
特別に試食させていただいた出来立てのフィナンシェは、ふわふわの食感にバターとアーモンドの香りが合わさって絶品でした!!
効率よく機械で進める工程もありながら、最終的には人の目で確認して仕上げる丁寧さでおいしさを守っています。
③数10センチにこだわり効率化したケーキづくり
スタジオの中は大きく焼き菓子部門と生菓子部門に分かれており、生菓子部門で作られているのは見目鮮やかなたくさんのケーキです。
生菓子は繊細な作業も多く、たくさんの工程が手作業で行われています。工場はひとりずつのブースに分かれており、それぞれが各種のケーキを仕上げていきます。
手作業でも効率よく進めるための秘密は徹底したオペレーション。道具もオリジナルでつくり、数10センチでも腕やからだを動かす手間を省くことで効率よく丁寧な手仕事が実現しているのです。ケーキ作りが属人化しないよう、研修にも力を入れています。
スタッフの働き方や会社としてのコストを考慮しながら、機械化と手仕事の丁寧さの両方をバランスよく実現させること。徹底したお菓子作りへのこだわりが、お菓子を囲む素敵な時間に繋がっているのだということを実感することができました。
シュゼットらしく、地域と、世界とつながる活動
シュゼット・ホールディングスはCSR活動にも長年力を入れてきました。
・阪神間(地元)の興隆につながる活動
・食に関係する活動
・世界を目指す活動
この3つを柱としながら、社会とつながる活動を続けています。
湯川さん「機能を集約するために本社は西宮に移りましたが、本店は変わらず芦屋にあって、阪神間といわれるこの地域はいわば私たちの地元です。今までもこれからも、地域に根付いたお店でありたいと思っています。まだ小さなお店だったころから阪神淡路大震災を乗り越えてきたという経緯もあって、被災地支援の活動も行ってきました。自分たちの被災経験から復興には10年はかかるという感覚があったので、東日本大震災が起こったときは長く続けられる支援をと考えて活動を始めました。それまでより内容量を一つ減らした商品をチャリティーの商品として販売して、その1つ分にかかるお金を寄付しています。ほかにも、震災で家族に不幸があった方が本当だったら製菓業界に行きたかったんだけど断念せざるを得ないということをきいて、製菓の奨学金をはじめました。僕らはお菓子屋なので、パティシエの研修もできるし、もし何かあれば就職のお世話もできます。実際に就職につながったというご縁もできました。」
そんなシュゼット・ホールディングスが取り組む社会とつながる活動の根底には、地元の若い世代への想いがあるそうです。
湯川さん「他にも活動の1つとして地域スポーツ、スケートの支援も行っています。実は兵庫県は氷上競技が活発で幼いころから頑張っておられる方も多くいらっしゃいます。そんな若い世代の皆さんに、地元にもこんな会社があるんだと知ってもらえるひとつのきっかけになれたらいいなと思っているんです。フィナンシェでギネス記録をとったり、パティシエが世界のコンクールで評価されたり、地元の会社のそんな姿を見て、「東京とか大阪の大企業じゃないと世界に出られないなんてことはない。兵庫県の地域の会社でも世界で評価を受けられるだ」ということを思ってもらえたら地元にとっても力になるんじゃないかと思っています。」
アナザー・ジャパンの活動の大きな目的の一つは、将来経営者の視点を持ち地域で活躍する若い世代を育成すること。
地元とつながりながら世界を目指すシュゼット・ホールディングスの姿は、私たち学生にも大きな勇気を与えてくれます。
長年地域に根差し、愛されてきたシュゼット・ホールディングスのお菓子。
お菓子を通して地域と、世界とつながり、人々の生きかたをつくってきました。
そしてその使命の先にはシュゼット・ホールディングスが目指す姿、ビジョンがあります。
それは「世界のスイーツグランドメゾンになる」ということ。
世界に向けたお菓子の可能性について、湯川さんはこう話します。
湯川さん「お菓子は、海外の方からお土産としてとても人気が高いんです。私たちがお菓子を作る上で大切にしている職人の手仕事は、国境を越えてその価値が評価されます。私たちの会社のパティシエが世界のコンクールで活躍しているように、まだまだ日本も捨てたもんじゃないなとお菓子を通して感じていただけたら嬉しいですね。お菓子は商材としてもおもしろくて、経済の調子があまりよくない昨今でも市場規模を伸ばしているんです。コンビニやスーパー、大学の生協、百貨店、空港と幅広い販路を持つお菓子だからこそさまざまな可能性を秘めていると思っています。」
今回のライター:Sei Yamaguchi