2022年 年間ベストミュージック

大石晴子 - 脈光

ジャズを基調としつつポップな印象だった前作のEP「賛美」から更に深化した。歪で繊細な楽曲に絶妙なバランスで揺蕩う歌声がもたらす心地良さ。何もかもが目まぐるしく変化する今の世の中において、彼女の歌だけは世界をスローダウンさせてくれる気がする。

もしもまだかかりそうなら
窓を叩かずに
このまま待っていよう
あなたの声は 誰のものにもならない
なぎさ

Whitney - SPARKS

フォーク基調の過去2作に対して、シンセ/バッキングビートを導入した電子的なサウンドには正直驚いた。もちろん元々のソングライティングの良さはそのまま。守備範囲が広くなり、次々と飛び込んでくる極上のメロディーに脱帽。バンドとしては過渡期なんだろうけど、今後より豊かなポップスに接近する事を期待して今回選びました。

Pinegrove - 11:11

個人的に2022年を最も象徴する作品。USインディーの急先鋒としてエモの文脈で語られる事が多い印象だが、スロウコアやカントリーといった要素を内包した壮大な作品。新年早々おったまげた。今最もライブで観たいバンドは間違いなく彼らだし、確実に生涯忘れられないライブ体験になることは約束されてる。フジロックのホワイトステージで俺を泣かせてくれ。タイトルの11:11は「松の木が並んでいる様子=Pinegrove」に擬え、これらの数字は数秘術で「チャンス」「偶然の一致」「シンクロニシティ」を表す。もし俺が英語ネイティブだとしたら辛辣で時に内省的なリリックに泣かされまくったんだろうな。

サニーデイ ・サービス - DOKIDOKI

宇宙一カッコいいバンドの新作を入れずして何を入れる。10/15、梅田CLUB QUATROにて行われたワンマンライブに当然のように行ったわけだけど、その時アンコールで披露された「風船讃歌」を聴いて「きっとすごいアルバムになるぞ」と直感的に思った。結果は想像を超える傑作。いつになっても少年性溢れる歌詞にインディーを極めた楽曲の数々、ズルいよね。おれもこんなこと言える50歳になりたい。

負けるなオレ 行けもっともっと
一番星 落っこちて 微笑んだ
だれよりも天才 自転車こいでる
真昼の超新星 立ち上がり 蹴っ飛ばした
サイダー・ウォー

Big Thirf - Dragon New Warm Mountain I Believe in You

20曲収録の超大作。おそらく自分の周りで「年間ベスト」に最も多く選ばれてる作品はこれでしょうね。Pitchforkも最高評価の9.0。来日ツアーも全日程ソールドアウトかな?おれも行きたかったぞチクショウ。多分これを読んでる人の殆どが聴いてるはずなので多くは語らないが、音響のプロダクションが素晴らしく、イヤホンを失くしたタイミングでこれを良い音で聴くためにいつもより良いイヤホンを買ったのはここだけの話。

Tsudio Studio - My Room

神戸在住のトラックメーカーTsudio Studioの新作。架空の旅行を表現した前作「Soda Resort Journey」とは対照的に、アルバムタイトルやその表題曲、「Telework」といった楽曲からわかるように、テーマは自室。既発表の「After Awas」、「Promis of Summer」といった曲も収録。グルーヴィーでメロウなトラックにロマンチックな詩が乗り、部屋の中でNetflixか何かで海外ドラマを観てるような気分にさせてくれる。彼のYouTube「微風ゾーン」を観てる方ならご存知だろうが、めっちゃええ部屋に住んではるんですよ。自分では絶対なし得ない事を平然とやってのける人に憧れを抱く事ってありますよね?僕にとってそれがTsudio Studioであり、彼の部屋なんです。

Soccer Mommy - Sometimes Forever

90s的なギターロックをダウナーに表現する事に長けてた彼女だが、今作はOPNのDaniel Lopatinをプロデューサーに迎えたと聞いて、ミスマッチを疑ったが、そんな心配は杞憂だった。先行シングルの「Shotgun」や「Bones」は彼女らしいドリーミーな楽曲であるが、「Unholy Affliction」はOPNのアレンジが光る実験的なナンバー。Snail Mailなどの他のSSWと一線を画し、新境地に辿り着きそうな予感さえする、聴いていてワクワクする1枚。

Toro Y Moi - MAHAL

チルウェイヴと評される事が多いが、過去の作品もジャンルや時代の垣根を軽々と飛び越えてきた。今作もサイケデリックロックやポストロックを落とし込んだシンセ・ファンク。先行曲の「The Loop」のMVはクラシックなゴーカートをでサンフランシスコをドライブする開放感溢れた内容だが、アルバムを通してそういった印象を受けた。フジロックのフィールド・オブ・ヘブンのステージで、美味しいお酒を飲みながら、Toro Y Moiのライブでタコ踊りしたいですね。SMASHさん、頼むよ!

Dry Ckeaning - Stumpwork

ソリッドなサウンドは初登場で全英4位を獲得したデビュー作以上に研ぎ澄ませてるかも。アンビエント・ノイズが融合し、妖麗さを獲得した彼らは無敵。ジャケットの気持ち悪さを克服出来る人は絶対聞いた方がいい。

Black Country, New Road - Ants from Up There

7人編成による楽器の多様さを存分に活かしたプログレッシブなサウンド。激しさと美しさが同居する演奏に、心を掻き乱してくるボーカルが乗る音像は激情とでも表現しましょうか。ただ、ボーカルの変更に伴いこれらの楽曲をライブで聴くことが一生叶わないのが残念。悲しみを抱きつつ観たフジロックでのライブは知ってる曲こそなかったが、自作への期待を抱かせる素晴らしい内容。ちなみにベースのタイラー・ハイドはカール・ハイドの娘。

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