豊川稲荷の詣で方
豊川稲荷は言わずと知れた商売繁盛の神。地元愛知だけでなく、東京など遠方からも信心深い経営者が足繁く通うこともで有名だ。真偽の程は不明だが、東京から毎月訪れる大企業の経営者もいるのだとか。これを裏付けるように、奉納されたお狐(狐の石像)やのぼりには東京をはじめ、全国各地の住所が並んでいる。
ところで、この豊川稲荷、京都の伏見稲荷などとは異なり、実は正式には寺である。その昔は、神社と寺はまとめて合祀されていた。この辺は神道が道であり、仏教が宗教であるという以前に、宗教に寛容な国民性なのだろう。明治政府の神仏分離政策で分離が進められたが、それを逃れた少ない事例の1つでもある。なので、所謂稲荷に多い赤い連続する鳥居は存在しない。寺側の本尊は千手観音、神社としての神は荼枳尼天(だきにてん)である。この荼枳尼天が乗っているのが白狐であるため、狐を神の遣いとして狛犬の代わりに祀っている。
荼枳尼天とは、実に癖がある神で、もとを辿れば夜叉であるとされる。平たく言えば、人肉を喰らう魔女であった。ここからは仏教やヒンズー教、その他の派生宗教によって説が雑多に存在するが、大黒天に死者の心臓のみを食すことを許され、それに従うようになったとする説が穏やかだろうか。同じく死肉を好む狐とは相性が良いらしく、太古から白狐に乗るようだ。
つまり荼枳尼天が人を加護するのは、死後にその心臓を食したいからであり、祈ったり、善行を行えばご利益のある一般の神々とは一味違う。荼枳尼天は明確に見返りを求めるのである。そにため、荼枳尼天に商売繁盛を願う場合は、非常に具体的かつ詳細に伝えることが望ましいとされる。いつまでに、どの程度の年商で、どの程度の利益で、などおよそ神の前で願うのは憚られそうな俗的な願いをするのである。そして、忘れてはならないのが、なにを見返りにするのかを言い忘れないことであるとされる。神は信心以外に見返りは求めないであろうが、荼枳尼天は神と呼ぶには、出自が生臭い。
話を戻すと、豊川稲荷をお狐さんと思って油揚げでも供えるのはお遊びの参拝。前述したように狐は乗り物に過ぎない。神の遣いとされるが、願いを伝達するかは怪しいものだ。まあ、一般の参拝はお狐さんを愛でているくらいが被害もなくよいだろう。
さて、前置きが長くなったが、私流の豊川稲荷(荼枳尼天)の詣で方をご紹介しよう。
まず、正門をくぐると二つの大きな鳥居がある。この鳥居をくぐり、スロープを上った先が本殿である。本殿の賽銭箱に賽銭を入れるが、ここはジャブ的な感じなのでホントに安い金額(10円くらい)で、詣でに来た旨と本日の予定を伝える。因みに、正式には寺なので、二礼二拍手一礼の神社の参拝のマナーは不要である。
次に、本殿を抜けるて参道を道なりに行くと、のぼりや狐の受付をしている小屋がある。ここで、目的ののぼりを入手すると、筆と硯を貸して貰えるので、目的(叶えてほしいこと)と自分の所在、社名、名前を記入する。記入が終わると、希望すれば記念撮影をして貰える。神社のスタッフさんに案内されてのぼりを立てる場所に行き、実際にスタッフさんがのぼりを立ててくれる。のぼりは最短でも3カ月は立てられている。
のぼりの受付をしている小屋のはす向かい小さな建屋があるが、これが知る人ぞ知る奥の院で、本来の稲荷としてはこちららしい。そこで、奥の院の賽銭箱にお金を入れて、叶えてもらいたい具体的な願い、そのために一切の犠牲を払う気はない旨、報酬として前金でのぼりを収めたこと、願いが叶った場合の成功報酬として狐を奉納することを約束する。成果が明確に判断できるように願いは具体的な数値と期限を用いることが望ましい。私の場合は、具体的な金額のキャッシュの確保を1年位以内に達成することを指示。また、達成のために不本意な仕事をするつもりはない旨、家族の健康やその他私に関わる誰一人が犠牲を払う気はない旨も伝える。
これで、私の願いと荼枳尼天の報酬である狐の報酬が見合っていれば、願いが叶うかもね的なノリだ。因みに、のぼりは2000円、狐は小が10万円、大が20万円だ。狐は狐塚に永久に飾られるのでお得。
ここまで書いて何だが、私は荼枳尼天や特定の宗教を妄信することはない。人間の嗜みとしてイベントを楽しんでいるに過ぎない。ただし、あまり遊びや悪戯での参拝はおススメできない。当たるも八卦当たらぬも八卦という言葉は、非常に良い言葉だと思う。その程度の気持ちで真剣にやるのが、オトナの嗜み感があって良いと個人的には思う。
そうは言っても、この荼枳尼天にリアリティを与えるのは、奉納された狐像や拝殿、塔などに掘られた寄贈者を見れば、一流企業の名がずらりと並ぶところだろう。また、のぼりは全国各地の住所が書かれている。私が参拝した日も、ちょうど横浜から狐(大)を奉納に来ている場面に出くわしたし、狐特大(ペア)の設置工事を行うため重機が入っていた。狐特大(ペア)とは言っても、狐塚に向かう参道の両側に置かれるもので、一般の神社の狛犬程度の大きさだ。だが、私的な勝手な値付けでも数百万は下らないだろう。
さすがは商売繁盛の神の頂点を争う豊川稲荷、これらの奉納品には全て領収書がデフォで付属するところもありがたい。見栄えも素敵な領収書かつ、これを否認する税務署職員も罰当たりだななんて思うと少し笑える。
少し取り留めもない話にはなったが、遠方から詣でられる方の参考になれば幸い。商売繁盛の神と、私の職業は競合している気がしないでもないが、こきは敢えて敵を称えておこう。神だし。