舞台「月形花之丞大逆転」の感想
久しぶりの記事です。
先日、池袋の東京建物Brillia HALLで公演中のYellow新感線公演「月形花之丞大逆転」を見てきたので、その感想を残しておきます。
新感線は昨年、公演を予定していましたが、コロナ禍の中で全公演中止でした。自分も生田斗真さん主演の「偽義経冥界歌」のチケットを確保していましたが、見事に払い戻し、、、、残念ですが仕方ないことです。昨年は行けそうかと思った芝居の芝居の殆どがアウトでしたから。
今回は客席に余裕をもたせて、あの大きな劇場で公演ということで贅沢でした。自分の座席もかなり良いところだったので、たっぷりと楽しむことができました。
ストーリーは劇団・月形花之丞の座長である月形を狙う殺し屋と、その犯行を未然に防ぐインターポールの刑事、その劇団に入った保険会社のセールスや元アイドルをめぐるドタバタ劇です。こうやって書くと、ほんとにハチャメチャですが、ほんとにハチャメチャです。なんの裏筋もなにもなく、単にふざけた話がそれらしく進む滑稽無糖な面白い芝居です。平然と「ハイジ」をパクってきますしね。
ストーリーと言うか、とにかく木野花さんがすごいんですよ。御年73歳ですよ、あの方がとにかくパワフル&パワフル過ぎて、元気がいいはずの阿部サダヲさんが霞むわけです。木野花さんの凄さは、自分が見た回ではもう芝居のエンディングに近いところで平気でアドリブぶち込んできて、阿部サダヲさんが困惑、西野七瀬さんが後ろで半笑いのなか、勝手に自分でクローズする強引さ(笑)そういうことを平然とやるまさに芝居の女王たる風格です。ほんとに楽しそうで、コロナの中でこういう芝居を打てる楽しさ・嬉しさなんだろうなあと。
芝居も今回はそういう「演劇愛」がすごく溢れていて、劇団☆新感線ファンならにやっとして、よっしゃーと手を叩きたくなるお決まりのセリフを後半に散りばめてくれて、ほんとに嬉しかったです。
他の役者さんの方々ももちろん素晴らしくて、古田新太さん、阿部サダヲさんはかっこいいの一言ですよ。あの二人がハイジと爺さんになって演じる作品パロディとか、いやもうさすがです。
かっこいいけど抜けているインターポールは浜名文一さん、かっこいい人がああいうのをやると、この劇団らしい感じがします。
さて、注目だったのは西野七瀬さん。正直、今までの映像作品を見ても「大丈夫かな?」という不安のほうが大きかったです。可愛いのは確かですが、感情表現やらなにやら含めて、自分というものが消せない人なので、舞台という場でどういう表現者になるのか?はすごく気になったので。
結論からいえば、この作品ではきちんとこの俳優陣の中の一つになっています。もちろん演劇としての所作などに未熟さはかなり目立つ(立ち姿、セリフの出方など)けど、それ以上に与えられた役柄にうまくフィットできていることのほうが大きいです。これはまず作家の中島かずきさんがきちんと西野七瀬さんを活かす配役として書いていること。元アイドルだけど、諸事情があって劇団に所属しているという設定が、西野七瀬さんをうまく活かす役柄になっています。この作品だと、細かい心情表現などを示すという部分もなかったので、西野さんの持っている可愛らしさの魅力がうまく使えていたので良かったです。途中のダンスシーンなどはむしろかっこよく演じることができています。最初から西野さんの起用は決まっている中で、今回の作品があったようなので、中島かずきさんも演出のいのうえひでのりさんも、うまい使い方をしたなあと思います。
今回は少人数で演じるということで、大きいステージの割に確かにキャストは少なくて、いろいろな制約がある中、こうやって作品を作るのは大変だろうなと、見ていてすごく思いました。前回見た「けむりの軍団」とかとぜんぜん違う。このあと緊急事態宣言が解除になる可能性が高く、どういう形で演劇が動いて行くかわかりませんが大変なことは続くと思います。
別件ですが、白水社の「岸田國士戯曲賞」の件も話題になりました。特に選評者の野田秀樹さんのコメントに対する批判が多く、違和感が残ります。このことは選評が出てから考えてもいいのかな?と思います。
そういうことはさておき、今回は新感線に芝居への熱い思いと楽しさを感じさせてもらってよかったです。