令和5年度司法試験予備試験口述試験(119点最下位タイ合格)の振り返り

1.はじめに

 こんばんは。
 何かと忙しく令和6年度司法試験の振り返り記事も書けていないのですが、本記事だけは今年の予備論文の合格発表前に何とか投稿したいと考えていたのでこのタイミングでひっそり公開しておきます。

2.本記事の趣旨

 本記事は、令和5年度司法試験予備試験において論文80位代からの口述最下位タイ合格を記録してしまった私が口述までの生活や当日の振る舞いなどについて振り返るものです。
 最初にこんなことを申し上げるのもなんですが、もし口述試験を目前に控えている受験生の方が本記事を読み進めようとされているのであれば今すぐここを離れて一分一秒でも多く口述の勉強をすることをおすすめいたします。それに該当しない方、あるいは口述の勉強の合間などに目を通したいという方にとっては多少有益な部分もあるかもしれません。
 ただ、本記事は「こう勉強するとよい」などとメッセージ性のあるものではなく飽くまでも個人的な思索の域を出ません。その点をご了解いただいたうえで以下を読み進めていただけますと幸いです。

3.口述およびそれに至る各試験の成績

 本記事を書くうえで成績の話は個人的に欠かせないと考えているので、はじめに口述とそれまでのひと通りの成績を載せておきたいと思います。

(1)予備短答 ※一部抜粋
民法:30点
民事訴訟法:23点
刑法:24点
刑事訴訟法:23点
順位:400位前後

(2)予備論文 ※一部抜粋
民法:A
民事訴訟法:A
刑法:C
刑事訴訟法:A
実務基礎:B
順位:80位代

(3)伊藤塾口述模試 ※1月上旬受験
122点(民事・刑事とも61点)

(4)予備口述
119点(おそらく民事60点、刑事59点)
順位:429位

 知らない方もいらっしゃるかもしれないので念のため説明すると、口述は民事と刑事の2科目があり、それぞれ60点を基準として62点~58点の範囲で点数がつけられます。合格基準点は例年119点となっており、イメージ的には片方の科目で失敗してももう片方の科目が平凡であれば合格に滑り込めるようになっています。
 私は論文で(予想に反して)ちょっとだけ良い順位をとり、更に口述模試の結果もさほど悪くなかったにもかかわらず口述本番はギリギリ合格という結果でした。本番終了後の手応え的には民事が61点、刑事が60~59点という感じだったので、点数を見たときは肝が冷えたと同時に少しショックを受けました。
 ちなみに保身的な言動になるのであまり言いたくないのですが、一応言及しておくとコミュニケーション能力は社会人ということもあって最低限は備わっているはずだと信じています。時々「口述はまともなコミュニケーションができさえすれば受かる」というような話を聞きますが多分そんな簡単な話ではないです(仮にそうだとすれば普通に凹みます)。

4.自分なりに考えた反省点

 正直なところ未だはっきりとした原因は分かっていませんが、「今あのときに戻ったらこれに注意するだろうな」という点を挙げておきたいと思います。なお、以下の考察を行うにあたり他の方の再現や成績を深く検討したりしたわけではないのでその点は悪しからずご了承ください。

(1)勉強時間が少なかった
 なんだかんだ言って結局のところこれに尽きるかもしれません。Studyplusを見返すに、私の論文の合格発表から口述に至るまでの合計勉強時間は約140時間でした。フルタイムで働く社会人ということで多少仕方ない部分もあるかもしれませんが、年末年始休暇があったにもかかわらず1日あたり5時間弱ということでやはり他の受験生(特に学生の方)と比べて少なかった感は否めません。
 念のため勉強内容に触れておくと、柱にしていた教材は民事が大島本2冊組、刑事が基本刑法各論でした。前者については主要な請求原因、請求の趣旨、主要事実を、後者についてはひと通りのケースについて成立する犯罪とその理由を諳んじられるよう周回したので、これらの教材は他の受験生と比較してそれほど穴があったとは思えません。
 一方で、上記以外の教材に関しては限られた時間でどうしても十分に触れることができませんでした。触れたものとしては①基本刑法総論、②基本刑事訴訟法の手続理解編、③民法、民訴、刑訴の論証、④各訴訟規則の条文素読といろいろありましたが、どれも1週できたかできなかったかという記憶しかありません。このあたりもきちんと潰していれば後述する本番での振る舞いももう少し変わったかもしれません。

(2)全体的に回答が冗長だった
 私も他の方と同じく「口述落ち」の恐怖は重々承知していたつもりで、どうすれば他の受験生より実力があるとアピールできるかを常に考えていました。そうした戦略の一つが「どの質問にもしっかりと厚く答える」というものだったのですが、結果的にはこの戦略が裏目に出たのではないかと今になって思います。
 これは私の推測の域を出ないのですが、口述も短答や論文と同じく受験生一人当たりの持ち時間が決まっており、その時間内に「全ての受験生が共通して聞かれる質問」を捌き切ることが点数との関係で重要な事柄なのではないかと考えます。仮にこれが真だとすれば、冗長な回答はボロが出やすいだけでなく時間を食ってしまうという点でもリスクになるわけです。
 実際、私は刑事で全体的に質問に対する回答が長くなってしまい、他の方が最後の方で聞かれたらしい訴因変更に関する質問を飛ばされています。回答の中身自体はそれほどおかしなことを言ったつもりはなく(もっとも後述のとおり一点怪しい箇所はあります)、かつ少なくとも主観的な出来として民事より刑事の方が点数が低いのはほぼ確定という感じなので、結果的に回答が冗長だったことが低得点につながったのではないかと考察するところです。
 ちなみによくよく考えてみると、試験官としても口述に辿り着く受験生がある程度実力を持っていることはよく理解しているはずで、一言で答えられる質問に敢えて長々答えることにどれほどの意味があるのかと今になって思います。冷静になればすぐ気づくことなのですが当時の自分はこの考えに至りませんでした。

(3)感覚的に常識外れとも思える結論をとってしまった
 これは刑事の具体的な質問に関する反省点なのですが、刑事の最初の方の質問で「夫婦喧嘩の最中に夫が妻にナイフを向けていたところ、夫が足を滑らせた拍子にそのナイフが妻の胸部に突き刺さり妻が死亡してしまった。このとき夫には何罪が成立するか」といった感じのことを聞かれました。このとき私は因果関係の肯否が肝だと考え「滑って転んだという偶発的な事情が介入していて、その事情はナイフを差し向けていた行為と関係性が薄い。そうすると、ナイフを差し向けた行為に内在する危険が現実化したとは言えず因果関係は認めるべきでないから、夫には殺人未遂罪が成立するにとどまる」という回答をした覚えがありますが、このとき主査から「これは実務的には殺人罪を肯定することになると思います」とさらっと言われて次の質問へ移りました。
 上記の結論はこの当時自分なりに考えを巡らせて導き出したものなのですが、振り返ると常識外れに感じられ「実務的には殺人罪を肯定する」というのも今となってはよく理解できます。実際のところこの質問において否定と肯定のどちらが答えとして想定されていたか、否定という結論をとったことが点数にどの程度影響したかは分かりませんが、もう少し「常識を考慮のうえ悩みを見せる」という姿勢を見せた方が出題趣旨に合致し点数につながったのではないかと今になって思います。
 口述試験においては合格発表後に出題のテーマが公表されており、おそらく論文と同じように「ここをしっかり検討してほしい」という出題趣旨的な部分もあらかじめ決められているのではないかと推測しています。そうだとすれば、基本的にはどの質問にも端的に答え、質問の難易度や試験官の態度などからしっかり答えるべきだと思われるところはしっかり答えるというのが望ましい姿勢なのではないでしょうか。

5.結びに代えて

 今回も自分の気の向くままに書きたいことを書いた感じになってしまいましたがいかがだったでしょうか。本記事が予備口述という過酷な試験と対峙される方にとって少しでも役立つものとなっていましたら筆者として冥利に尽きます。
 受験生の方々の合格を心より願っております。どうか今後もからだに気をつけてお過ごしください。


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