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【感想】ラーメン小説博覧会【ごちそうさま!】
少し暖かくなってきましたね。まだ寒波はやってきていますが、みなさんラーメン食べてますか?
ラーメンを食うでごわす! ということで、「ラーメン博覧会おかわり!」の感想を書いていきます。今回は主催者作品も入れて11作品ですが、かなり気合いの入った力作揃いです。それでは早速見ていきましょう。
感想
掲載順は参加順になります。また、敬称略になりますのでご了承ください。
1.ラーハラ/ぴのこ
開始五分のほぼ提供時間一番槍ラーメン! しかもラーメンラッシュ!
登場ラーメンは作中で「私」が食べたラーメン計15杯になります。
まずはご参加ありがとうございました。ラーメンと言えばぴのこさん、ぴのこさんと言えばラーメンです。そして一番最初に出されてしまった完璧なラーメンによるラーメンのための小説、素晴らしいです。ぴのこさんの作品はストーリーが明瞭でとても理解しやすいです。その理由は「やりたいこと」から逆算して物語を作っているからではないかと推測します。まず札幌旅行とラーメンの紹介エッセイの構想があり、これを生かすための背景を付け足すことでラーメンラッシュがぐっと引き立つ構成になっています。しかも細部のこだわりもありました。イイです!
まず、冬の北海道を表現にするに当たって「寒い」という情報と地名の他に「砂箱」というアイテムを使っているところに細部のこだわりを感じました。それからちょくちょく出てくる地名と移動時間が本当に札幌を旅しているようで非常に面白かったです。このラーメンのモデルを実際にぴのこさんが食べたものであることもポイントが高いです。
そして何より、この話を読み進めて行くにつれて「この主人公は一日に何杯もラーメンを食べて大丈夫なのか」と心配になっていきます。今流行っている女性の大食い漫画ではないですが、冬の陰鬱とした札幌の風景と相まって「たくさん食べて気持ちいい!」ではなくどこか不穏な空気が流れているのが印象的でした。これが情景描写って奴です。
この作品はラーメン紹介だけでなく、悪霊を祓うためにひたすらラーメンを食べるという狂気じみたストーリーも大変面白かったです。ラーメンだけでなくさらりと真言を盛り込んでくるところにもホラーとしてブレない心意気を感じました。また、この作品はフィクションですがご本人が実際札幌でこれだけのラーメンを食べ歩いているというのもホラー、いや素晴らしいですね。取材がしっかりしていると描写が生き生きしてくるってものです。
今後ぴのこさんにおかれましては、ホラーや不条理系の作風はスタイルを確立していると思いますので更にこちらの道へ精進されるのも良いと思いますし、小説を書き始めたばかりということなので違うジャンルの作品に挑戦してみるのも良いかと思います。意外と甘々青春ラブコメや深い人間ドラマが性に合うこともありますので……!
2.こだわりのスープ/山野エル
スープの香りが犯人をあぶり出す!
登場ラーメンは決め手の1杯になります。
ご参加ありがとうございました。丁寧な豚骨スープの作り方が、まさか殺人事件のアリバイと結びついているとは誰も思わないでしょう。
最初に、この作品がミステリーでスープの香りが違うという概要を読んで私はドキッとしました。これでは死体を煮込んだという「手首ラーメン」ではないかと……でも死体を煮込むのではない方法でスープの香りが違っていたというオチだったのでよかったです。アリバイ作りにスープの仕込みを用いることを考えた店主もナイス判断でしたね。刑事がスープの香りに細かく気がつくラーメン通でなかったら、完全犯罪もあり得たかもしれないです。ここの意外性はとっても面白かったです。
そしてこれは個人的な好みですが、殺人犯を見破るトリックをお話の中心に持って行くなら冒頭で殺人事件が起こっていることを明記してもいいかな、と思いました。例えば男が捜査一課の刑事であることを先に述べておいたり、ニュースや通りすがりの人の噂話などで殺人事件があったことを仄めかすなどして初手から読者に「物騒だな」と思わせておくと結末が更に盛り上がるかな、と思います。
どうしても殺人事件のアリバイ作りに目がいってしまいますが、豚骨スープを作る際の行程が細かく書かれているのも見所のひとつだと思います。下茹での処理の仕方で味や香りが変わってしまうほど、ラーメンのスープというものは繊細なものなのだと感じました。敏感な嗅覚で事件を解決する刑事、シリーズものになりそうですね。面白かったです!
3.らぁめん屋 関ヶ原/押田桧凪
みんな花丸になってほしい気持ちのラーメン。
登場ラーメンは合格ラーメン2杯になります。
ご参加ありがとうございました。父と息子の新作ラーメンですね。創作ラーメンがメインに書かれていて、ラーメンという事象の底の知れなさを感じました。
お話はラーメン屋で大学共通テストの試験問題を盗み出せないかという受験生の会話から始まります。店主は不正をしようとする二人を心配し、かつてカンニングをしたという自分の息子のことを思い出す、というのが主な内容ですね。
断片的で示唆的なエピソードから、不正というものについて考えさせられました。明日が試験ということであれば、こんな冗談を言ってる場合ではないので明らかに受験生は追い詰められていると考えられます。もし実行すれば受験に失敗する以上に一生を棒に振る結果になるというのに、こんなことを語り出す受験生は極度の不安の中にいるのではないでしょうか。
そんな受験生の心に寄り添う一方で、店主は自分の息子のことを思い出します。作中で息子が実際にカンニングしたかどうかは明らかにされていませんが、悪いことをしたと疑われていることの居心地の悪さがじっとり伝わってきます。そして渦中の息子が直接登場しないことで不穏度は更に上がります。正義を重んじる父親は、息子に真偽を問いただす前に「悪役」であることを選びますが、そんな父親を息子はどう思うのかをもう少し読んでみたかったです。
トマトラーメンも登場した当初はびっくりしましたが、最近では時々目にするようになってトマト鍋もトマトの味噌汁もそこそこ受け入れられるようになってきているのかなと感じます。洋風のラーメンというのもいいものですよね。
個人的にはエピソードをもう少しラーメンという食べ物に寄せてほしかったかなという印象がありますが、これは同作者の『共演』という作品の父親視点のお話ですね。息子から見た父親の話と赤に固執する理由がそちらで書かれているので、気になった方は息子から見たラーメン屋の親父を是非読んで頂きたいと思います。
4.戸塚あきらのラーメン精神論/中田もな
油豚ぶたブタちゃんまみれ。
登場ラーメンは屋台、キャバクラも含めて6杯となります。
ご参加ありがとうございました。ラーメンで何となく繋がっている男の繋がり、おいしく読ませて頂きました。この二人に特別な関係性がないことで一層ラーメンについて印象が深くなるのがいいところだと思いました。
ただぼうっと流し読みするのもいいのですが、この作品何度も読むと切り口が変わってきてすごいなーと感じました。ただ男二人がラーメン屋で与太話をしているだけの話で終わってもいいですし、戸塚あきらの才能の無駄遣いを嘆いてもいいですし、ラーメンで戦争を終わらせるという発想の突飛さをつついてもいいと思うのです。どこから読んでもおいしい、そんな印象を受けました。
登場する事例を見ると、戸塚の才能は天才的と言っていいものだと思われます。鋭い洞察力と根拠を元にしっかりラーメン屋を分析して、的確な判断を下しています。イギリスへ行っても美味しいラーメン屋を見つけるという展開もいいですね。ここでちょっと笑いました。
場末の飲食店で遠い国の戦争が終わらせられないかと談義する、という話も興味深いです。自分とは全然関係のない場所のことをテレビというメディアから見聞して、そこに思いを馳せることができるようになるというのは人類の進歩です。そこで戦争の話題が出たので平和利用に、という展開になりそうなのですがそうはなりません。この突き放したように閉じる幕切れはある種の爽快感があります。持って生まれた才能を社会のためではなく自分の幸せのために使う、という話が私は大好きです。
最後に、登場する「油豚ぶたブタちゃんまみれ」という油そばのネーミングの良さが最高でした。思わず声に出したくなる日本語だと思います。ネーミングがおいしそうっていいですね。皆さんも声に出してみてください。「油豚ぶたブタちゃんまみれ」。おいしそうですね!
5.ラーメン再々々遊記🍥/真狩海斗
ナルトだらけ。
登場ラーメンは……「俺」が作中で食べたのは8杯、だと思います。目の前で食べられたものはダブってしまうのでカウントしてません。
ご参加ありがとうございました。まず、本当に面白かったことをお伝えしたいです。最初にこれを読み終わった後「カクヨムやっててよかった!」と思ったくらいです。
今作品は藤子・F・不二雄が得意とした不条理な時間SFとラーメンが融合して更に面白くなったものです。過去や未来の自分がタイムスリップしてきて大騒ぎというこの話、有名どころで言えば「ドラえもんだらけ」「あやうし!ライオン仮面」があります。他にもドラえもんで言えば「ぼくを止めるのび太」、そして異色短編になると「自分会議」というものがあります。すみませんここは早口です。
ラーメンを好きなだけ食べるためにもらった時空を操る謎の装置「ナルト」を手にした主人公が、いつの間にか銃を手にしていたりもう一人の自分に何度も出会ったりとかなり忙しいお話です。ラーメンカウントするために再度メモを取りながら読んだのですが、過去で未来の自分がカップラーメンを食べているのを見て食べたくなった、などきっちり一人の「俺」が作り込まれていて面白かったです。特にスマホの部分がよかったです。最初に登場した違和感ポイントを読んだときは後でナルトループするのだろうと思ったのですが、「そこ!?」というポイントに時間が移動したのがナイスですね。
この話はナルトの時空操作がキモですが、「俺」の小市民っぷりも侮れません。ここまで騒動が大きくなった原因は、完全に空気に飲み込まれた「俺」のせいとしか言えません。しかし、最初に「俺」がどこで躓いたのかはループに飲み込まれて永劫の謎になっています。それを言えばナルトはどこから発生したものなのか、という謎も残りますがそれはまあ、そういう話なので。ライオン仮面や時空パトロール7のオリジナル原稿がどこから沸いたのかという話ですからね。そこは考えてはいけない。
最後に、全てが終わった後の台詞がとってもよかったです。元は「美味しんぼ」の台詞なのですが、このわっちゃわちゃした空間を締めるにはちょうどよかったと思います。身の丈にあったラーメンを食べること。カップラーメンのプラモデルを作ること。あったかい布団でぐっすりねること。こんな楽しいことは他にない! めちゃくちゃ面白かったです! いつか「世にも奇妙な物語」とかで実写化してほしい! ありがとうございました!
6.竜骨ラーメン始めました/太刀川るい
溶けた氷の中に恐竜がいたらスープに仕込みたいね!
登場ラーメンは竜骨ラーメン1杯になります。
ご参加ありがとうございました。主催者は古生物が大好きなので、大変面白く読ませて頂きました。某恐竜映画のように恐竜を復活させたけれども精肉にするしかない、という人類のエゴの塊のような導入がいいですね。死んでいたのに殺すために復活させられる、とか恐竜もたまったものではありません。
こちらは物語を楽しむというより「竜骨ラーメン」という発想の紹介のような掌編ですので、ラーメンを啜る以外のアクションがないことで恐竜の出汁からとったラーメンというギミックをシンプルに楽しむことができます。もし話を広げるならワニ肉やダチョウ、鴨など他の動物で出汁をとるラーメンの話だったり復活した恐竜の見た目にまつわる話だったりを加えると更に楽しめそうだと思いました。恐竜の精肉過程、ちょっと気になる。
ところで、ここで登場する「出汁を取る恐竜」って何の恐竜なんでしょうね。一般的に肉を食べる動物より草を食べる動物のほうがおいしいという話もあるので草食恐竜、そして鶏っぽい外見をしていたほうがそれっぽくなお見た目も恐竜恐竜していたほうが面白いと思うのでイグアノドンやパラサウロロフスあたりがラーメンになっているところを想像しました。イグアノドン農場、いいですね! 乳搾りが出来ないのが残念です。
シンプルな構成と言いましたが、店主の目が機械だったりさりげなく「バイオメンマ」と出てくるところに世界の様子がうかがえてよかったです。メンマはバイオなのに、ネギや玉子は天然物でいけるんだ、というところも面白いです。竹は迷惑植物として未来においては根絶やしにされている可能性がありますね。タケノコがもう、食べられない……。
締めのしみじみとした感情もさりげなく、まさしく「思いを馳せる」という言葉がぴったりです。大変おいしかったです、ありがとうございました。
7.Viridian/祐里
あなたに男の子の一番大切なものをあげるわ。
登場ラーメンはお姉さんの手作り塩ラーメンが計4杯になります。
ご参加ありがとうございました。噎せ返るような夏の熱気にくらくらしました。童貞と訳ありお姉さんのひと夏のランデブー、えっちですね。
ラーメンというか、昨今の炎上を鑑みると麺類ってえっちな食べ物なのかもしれません。付き合ってないのに自分が食べたいからとラーメン屋に女子を連れてくる男はなっとらん、という話もありますが逆に言えばラーメン屋に女子を連れてくる男というのはもう成立しているという話になりまして、やっぱりラーメン屋はえっちということになります。
冗談はさておき、登場するラーメンは豚骨から煮込む本格的なラーメンではなくインスタントの塩ラーメンです。しかもスナックのママ(でいいんですよね?)をしている訳ありお姉さんの手作り。食べ物はどう高級なものを食べるかという他に、誰とどこで食べるかというシチュエーションも大事になってきます。今回は開催が冬の時期だったせいか寒い中食べるラーメンがおいしい、という話も多いのですが今作のように夏の最中に汗をかきながら食べるラーメンも風流だと思います。しかもお姉さんの手作り。そそるぜ!
お話の内容なのですが、ズバリ訳ありのお姉さんと童貞のひと夏の経験です。ラーメンもチープなら、登場するアイテムもガラスの指輪、交わされる会話も「上手か下手か」に集約されていて更にチープな質感があります。そこにまだ半人前と言われるような男の自信のなさがぎゅっと詰まっていて、彼が成長して彼女の前に現れるラストから「あの夏は過ぎ去ったのだ」という感じがしていいですねえ。
表題の「Viridian」は日本語で「緑色」、塩ラーメンに入っているほろ苦いほうれん草を表現していると解釈しました。苦くて白いサッポロ一番塩ラーメン、それからのシャワーシーンは大変に示唆的でニヤニヤしてしまうところです。セックスが全面に出ていて敬遠してしまう読者もいると思いますが、童貞お姉さん文学としてとっても良いと思いました。面白かったです!
8.培養の時代ー豚骨物語ー/イータ・タウリ
骨で作れ命のスープ!
登場ラーメンは審査員に振る舞ったものをそれぞれ2杯とカウント、そして最後の1杯で3杯とさせて頂きます。
ご参加ありがとうございました。骨太のSFにして骨のお話、楽しく読みました。ラーメンを食べる描写こそ少ないですが、ラーメンのスープを作るために奮闘する男たちの物語に一本の芯が通っていてこってりとした読み応えを感じました。
まず、最初の培養肉に押される天然物の豚骨仕入れの話はまるで禁酒法時代のアメリカのようで緊迫感がありました。脱法豚骨を手にするために闇取引があり、そして負傷することで主人公は問題の解決策へ辿り着くストーリーの展開も無駄がなく、最後の締めの大団円も後味すっきりという形でよかったです。
また、この作品は近未来における命に関する倫理的な問題も扱っています。この世界では全体的に培養技術を使う方向に舵を切っているため、現実では研究が進んでいますが心理的抵抗の大きそうな「豚の体内で臓器を培養して代替品にする」という行為が行われています。ともすれば忘れそうになる命を食べているという行為を「培養技術」というクッションを置いて実感できるようないい設定だと思いました。
欲を言えば、収まりがとってもよくて少し予定調和になっているような気もするので、ライバルの山岡側にあったと思われる苦悩や闇ブローカーとの対決でもうひと波乱あってもよかったかなと思います。でも、これはこれで一貫したストーリーとして完結しているのでこのままでもかっこいいと思います。おいしい豚骨ラーメン、ありがとうございました!
9.平ザル繁盛記・津軽屋メノウの戦い/蛇ノ目魚ノ目
北の最前線には機械の作ったラーメンが似合う。
登場ラーメンは店内で食べられたラーメン、およそ11杯だと思います。
ご参加ありがとうございました。戦う男の人生とそれを見守る機械とラーメンの話、熱く読ませて頂きました。ここで白状いたしますと、「戦争とロボットが作る食事」というモチーフ、私も昔書いたことがあります。なんていうか、この題材ってロマンですよね。
まず、なんと言っても主人公のメノウが愛らしいです。インターフェイスの顔文字が途中まであるのですが、あることで破壊されてしまってからも読者にはメノウの顔が見えるようでした。機械なのですが、確かに自立したキャラクターとしてメノウが書かれていると思いました。こういう機械大好きです。
そしてメノウと時を同じく過ごす一人の男の人生がラーメン屋を通じて垣間見える構成が素晴らしいです。メノウは津軽屋という場所で彼を定点から観測しているという立場であり、それが読者の視点でもあるということでおそらく激動である彼の人生を上手く表現できていると思います。初めは保護者らしき人に連れられて、次は友人を連れて、そして友人が減り……というのは戦争があってもなくても人生においてよくある構図のように感じました。無常って奴ですね。
さらにメノウの作るラーメンにも工夫があり、毎回相手を見てラーメンの味を調整するのがいじらしいです。メノウがまるで人間らしい、と読者が感じる一方で来店するたびに戦場で人間性を失っていく男が対比されているようで胸の辺りがぎゅっとなる感覚がありました。寂寥感を埋めるようなメノウの最後のラーメンが男の救いになるといいなと思います。
とにかくメノウのキャラクターでぐいぐい読んでしまったのですが、ここで直接描写されていない戦争の様子がラーメン屋の中に漏れて見えてくるところで世界が少し開けて見えたのが本当によかったです。説明とかどうでもいいんです、ただラーメンがあればいい。最後の締めもかっこいいですね。面白かったです!
10.夜中のラーメン/テマキズシ
あるのがいけない! あるのがいけない!
登場ラーメンは深夜に食べるラーメン1杯になります。
ご参加ありがとうございました。今回参加された作品の中で、一番空腹やラーメンをダイレクトに表現しているなあと感じました。
しばしば文章表現において、比喩や難しい言葉を使う方が高尚であると思っている方がいます。しかし、私はそうは思っていなくて「読者が読みやすい言葉を効果的に配置している小説」が読みやすい小説であると思います。肩肘張らない言葉遣いは共感を呼び、この作品で一番目的としている「深夜にラーメンを食べる」ということに関する素直な感情が吐露されていると思います。「おいしそうに食べるなあ」って、誰もが思うはずです。
しかしこれを「小説」と呼べるかというと、あまりにも作者の実体験に比重が傾いていそうなので「エッセイ」になりそうだなあと感じました。一応私小説というジャンルもありますが、社会的な立場がある「私」の心境を綴るのが私小説であるため「ラーメンがおいしかった」という日記的要素が強い作品はエッセイと呼ぶのが相応しいと思います。
それじゃあどうすればいいのかと言えば、ラーメンを食べる人物をもっとクローズアップするとかなり「小説」になると思います。この作品には断片的に「バイトで4連勤」「実家住まい」「冷蔵庫にチャーシューが入っている」という情報が登場します。そこにどんなアルバイトをしているのか、深夜に帰宅するような年齢の人物が何故一人暮らしをしていないのか、冷蔵庫のチャーシューはいつどこで誰が買ってきたのか、それとももらったのかなど「自分が実際に見た聞いた」から離れて設定していくとググっと物語が深くなると思われます。
とりあえずラーメンというものは何故か夜に食べたくなるものです。朝ラーメンとは言いますが、敢えて夜ラーメンという言葉がないことからラーメンと夜の相性は抜群です。そして、これだけ疲れているのにちゃんとお風呂に入って皿洗いも洗濯もするというのは並大抵のことではないと思いました。偉い! すごい!
11.みんな自由に飛べますように/秋犬
主催なのに最終日に出してきたカスの主催者作品です。罵ってください。
登場ラーメンは新居で食べるカップラーメン2杯です。
(主催者作品ですので、ここから先はなんでも鑑定団の中島先生の口調で読んでください)
この作品の非常によくないところはですね、小手先のテクニックで何とかカップラーメンと女の子を引っかけようとしているところです。無理矢理女の子をカップラーメンに例えていますが、そこがまあ趣がない。そして文字数の関係か何なのか知らないけれども、前半にラーメンの話がちっともない。これだと「主題がラーメン」という読者の気持ちが前半で離れてしまう。主催者なんだから、もっとおいしそうなラーメンを書きなさい。
しかも登場人物が女の子だ。ラーメンという男の食べ物の話を期待してやってきた読者はもうコンビニの客に内心あだ名をつけている主人公で「なんだこのクソ女」ってヘイトをためますよ。そうするとですね、男受けが悪い。男なんてものはね、百合なんていうタグには甘酸っぱい青春とか心の成長とかあんまり求めてないんですよ。ただおっぱいがふたつあってお得だなくらいのエロ目的なんですから、もっと女の子をエロく書かないと百合の意味が、ないんじゃないかなー。
一応褒めるところはですね、それでも女の子同士の心の交流みたいなものはしっかり書けてるんじゃないかって思いますね。あとは読者の心を掴むようなエロい展開を盛り込むことですね。これでも十分エロいって思ってもらえる寛大な読者もいると思われますので、床の間に飾って楽しむくらいでちょうどいいんじゃないですかねえ。
ピックアップについて
今回は参加作品が少ないので、ピックアップはなしとします。1万字以内でボリュームも少ないので、みんな全部読んでけれや。感想があると嬉しいはずやで。面白かったら書いたってや。
主催者雑感「ラーメンとは何か」
さて、ラーメンとは一体何かという話です。
今回主催者作品も入れて11作品、カウントされたラーメンは54杯でした。作中で食べていないラーメンなどカウント外のラーメンもありますので、もっと多くのラーメンがこの背景で湯気をたてています。集計中はお腹が減って仕方がありませんでした。
そして全作品を読んで、主人公が明確に女性の作品が1作品であったことが「ラーメン」という食べ物が何であるのかを物語っている気がしました。
なんとなくそんな気はしていたのですが、「ラーメンは男の食べ物」なのかもしれません。逆に言うと、女性を全面に出した文学にラーメンを絡ませて登場させるのが難しいということです。女性店主が登場する作品もありましたが、「男ではない」というニュアンスが大きくラーメンと女性の話ではありませんでした。
もうね、現代女性とラーメンの取り合わせが悪い。実は主催者、当初「女性がラーメン屋でラーメンを食べる」というシチュエーションでドラマチックなものはないかといろいろ考えたのですが「お母さんが小さい子供にラーメンを取り分けてて自分の分が食べられない」というものくらいしか思いつかず、それって面白いかってなって没にしたくらいです。女の子二人でラーメン屋に行くのも不自然ですし、まだファミレスで長話させたほうがいいですね。
そこで、ラーメンっていうのは食べながら話が出来ないものなのだなって思いました。味と向き合ってほしいという私語厳禁のラーメン屋はあっても、他の食べ物屋でそういうのはあんまり聞かないですね。近いのは牛丼屋や立ち食いそば屋でしょうか。やっぱりこれも男の園ですね。男は飯を食いながらコミュニケーションをとらないのかもしれません。代わりに酒や煙草なんかでコミュニケーションをとるのでしょうか。そんな時代じゃない? そうですね……。
代わりに、ラーメンというのはそれ自体がコミュニケーションとして機能しているような気もしました。ラーメンの味を通じて交流を深めている『戸塚あきらのラーメン精神論』やスープそのものがメッセージになっている『こだわりのスープ』など、ラーメンそのものの声というものが存在するのではないかと思いました。
つまりラーメンとは、単なる食事ではなく私たちに寄り添う相棒のようなものかもしれません。『平ザル繁盛記・津軽屋メノウの戦い』で戦場へ向かう一人の男に寄り添ったり『らぁめん屋 関ヶ原』で受験生の心配をしたり、『夜中のラーメン』でラーメンを食べておいしいという感情に素直に寄り添いたくなったりするのだと思います。
そして今回、ラーメンと未来は相性がいいことがわかりました。未来がこうなったら面白いかもしれない、という『竜骨ラーメン始めました』や技術の革新を描いた『培養の時代ー豚骨物語ー』、時間そのものを操る『ラーメン再々々遊記』などラーメンと未来技術をくっつけるお話が集まりました。何故そんなイメージがあるのだろうと少し考えたのですが、ラーメンほど「3分間」という具体的な時間が定着した食べ物ってないのではないかと思い至りました。つまり、時間という概念と密接な関係にあるラーメンは時間SFや未来を描いたものと相性がいい。『みんな自由に飛べますように』で提示された未来への可能性がラーメンという食べ物にはあるのだと思います。
もちろんラーメンに食事としての面も大いにあります。食事とエロスが融合している『Viridian』や、ラーメンを極めた食の暴力である『ラーハラ』など、人間性を抉る作品もありました。食べるとは何か、生きるとは何か。ラーメンはセックスとダイレクトに結びついていたり、悪い気を追い払ったりするのに食べられています。
つまり、ラーメンは命そのものかもしれません。
ラーメンは命なので、これからもありがたく食べましょう。
全てのラーメンに、幸あれ。
おわりに
今回も力作をたくさんありがとうございました。そして今回で食べ物シリーズは一度区切りをつけようと思います。次回の企画は未定なのですが、例によってお題企画か古典的なテンプレを用いる創作支援系の企画か何かを考えています。
それではおいしいラーメン、たくさんありがとうございました! またどこかでお会いしましょう。
ごちそうさまでした!