イルミネーション・ツアー 2021/12/24
2021/12/24
イルミネーション・ツアー
今年のクリスマスイヴはひとりだ。乗り込んだ車内はクリスマスムードかと思えば、だいたい真っ黒なコートの背中で埋め尽くされていて、だいたい、イヤホンとかをして眠っている。わたしは、今日の夜ご飯なにたべよかな、なんてちょっぴりだけ考えたりしながら温かい背もたれに身を委ねている。電気の通った電車のシートに抱かれるクリスマスもあるね、と思う。
実家にいた頃クリスマスはイヴだった。リビングは畳だからクリスマスツリーは買ってもらえなくて、でも食卓には手作りのエビフライとかが並んだ。サンタクロースを信じていて、プレゼントをちゃんと手紙にしてねだった。毎年違う種類のたまごっちが枕元には届いていた(いったいなぜ何個も所持したかったんだろう、と思う)水色としろいやつ。もう、キャラクターの名前はあんまり覚えていない。ちいさくてやわやわで、なんとかっち、て名前だったことだけ覚えている。
クリスマスについて覚えていることもある。イルミネーションツアーだ。冬場、何歳までか、父親と兄と夕食後にイルミネーションを廻るのが恒例行事だった。といってもイルミネーションツアーとは、車の中から知らないお家のイルミネーションを勝手に盗み見ることで、ちっぽけだったけど、真っ暗闇にイルミネーションを見つける瞬間は、ツチノコでも見つけたみたいな喜びだった。わ!ひかってる、あれはスイミングが一緒の○○君のお家、あれは結婚式場だから派手だね、ここのお家、今年はやらなくなっちゃったね、なんて言いながら。車内は温かいのにわざわざ窓を開けたりして覗いて、ぴゅうと入ってくる冷たい風が、上気した頬を冷やしてくれた。ぴかぴかのイルミネーションに心は踊る。しかも、おうちではあったかいこたつと、ケーキが待っている。
震災を機にイルミネーションのあるお家はぐんと減ってしまって、それからイルミネーションツアーをすることも少なくなった。クリスマスの思い出をまたやりたいと言ったら、父は付き合ってくれるだろうか。
東京の街はそもそも明るい。イルミネーションがあるから、二割増しで明るい。それなのに、みんな暗い服を着ているから、サンタさんが赤いのは得策かもしれない。おとなになって、イルミネーションツアーはできないけれど、この車窓からぴかぴかを探す。おうちに帰ったらあったかいご飯もこたつもないけれど、たくましいから、コンビニスイーツでも買っちゃおうと思うの。
メリークリスマス おやすみなさい
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