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彼と彼女の短いようで長く香る余韻『short HOPE long Peace』

『ghostpia シーズンワン』が記憶に新しいインディサークル「超水道」から発表された『short HOPE long Peace』は彼らが初期から手掛けてきたノベルゲームのシリーズ「デンシノベル」の新作だ。

『ghostpia シーズンワン』がコンソールやSteamでの初の販売タイトルとなったこともあって、超水道の作品自体に触れるのが初めてだった方も多いと思われるが、2011年の『森川空のルール』からiOS向けのアプリとして作品を発表し続けている老舗サークルである。

超水道自体の成り立ちや活動については自分も出演していた「カワチたちの
夜」チャンネルでも触れられているので御覧いただきたい。

自分が共同運営しているチャンネルでは超水道の代表のミタヒツヒトさんをお迎えした配信も行っている。

「デンシノベル」のゲームとしての大きな特徴はスマートフォンの画面に最適化された縦読みの画面構成であり、快適なUIである。ノベルゲームに対するシステム周りの造詣の深さは『ghostpia』でも発揮されていてたが、タップすることで流れていく文字の量や表示されるスピードの制御、操作に関する分かりやすい説明などとにかく快適に読ませることへの意識がうかがえるデザインだ。

操作説明が分かりやすい

ノベルゲームの魅力の一つにプレイヤーの操作(マウスのクリックやボタンの押下)に応じて文章やボイス、スクリプトされた演出が小気味よくレスポンスされる快楽がある。デンシノベルではフォントも作品ごとに適切なものを選択する気遣いが良い。ノベルゲームにおけるフォント選びはキャラの立ち絵と同じぐらい印象を左右するものなだけに、標準フォント以外を検討している点にテキストへのこだわりが感じられる。

さて、ノベルゲームにおいて最重要の要素であるシナリオだが、本作が描くのは「三級品の恋愛」だ。

煙草の銘柄にもパートナーにもこだわりのない大学生の桜田若葉はサークルの後輩から突然告白される。ふたつ返事で告白を受諾する若葉だが、告白してきた後輩は煙草をやめることを要求してくる。気の弱そうな後輩だが、男を切り替え続けてきた若葉に対して特に責めることはなく、ただ煙草にだけは執着しているのはなぜだろうか・・・?

奇跡的な出来事は起きず、「理想的な恋人」でもなければ、告白もキャンパスの一角の喫煙所、恋愛における駆け引きやサスペンスも少ない淡々とした展開で1時間程度で読み終わってしまう短編だ。ありふれた一級”ではない”物語。ただ、本作で描かれる若葉と後輩の短い恋の余韻は深く残る。

斑(ぶち)によるイラストも魅力的

「わかば」は旧三級品と言われる、税率の低かった国産煙草の一つ。「ホープ」は「ショートホープ」の愛称でも有名なこれまた国産煙草。「ピース」はピース缶と呼ばれる缶入りでの販売もされている国産煙草の代表格で、こちらはロングサイズの箱がロングセラーとなっている。これら3種はいずれもニコチンの量も多めで、最近流行りの電子タバコやメンソールが効いたさっぱりしたフレーバーの煙草とは異なるヘビィなものらしい。

HOPE

上記のことを踏まえると、『short HOPE long Peace』というタイトルにも様々な意味が見えてくる。読む前と読み終わったあとではまた別の意味が見えるだろう。

Peace缶

企画・ディレクションからシナリオまで手掛けた蜂八憲によるあとがきも含めて味わい深い作品だ。もう少し若葉の物語を読みたい気持ちもあるが、近づく前に消えてしまう煙のごとき曖昧な距離感もまた良いものだ。喫煙者・非喫煙者にかかわらず、煙草を燻らせてチルする感覚で読んでいただきたい。

『short HOPE long Peace』は超水道のサイトにて、ブラウザ上から遊ぶことができる。

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庵野ハルカ
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