# 71 クマとヤマ
秋田に住む実家の父から、「スーパーの駐車場にクマが出た」と、連絡がありました。
スーパーの駐車場と言っても、車通りの多い道路をいくつも挟んでいる、住宅街にあるスーパーです。
実家から徒歩3分弱。
ついに、そんな近くにまで、、、
クマに遭遇して危険な目に遭う確率はまだ低いだろうと信じていますが、それよりも実家の家族にとってショックなことは、外を歩くことにも恐怖を覚えなければいけないこと。
父は日課の散歩はしばらくやめにしたし、母と祖母も含め、家族全員が怖くて車移動が必須。
そうなると、それに付随して、高齢者の運転免許証返戻についてとか、地方の生活インフラの弱さとか、月並みな話題が思い浮かんではきますが、偉そうなことを語れる程の知識も対策案もありません。
シンプルにただ1つ願うことは、いつもの山との生活を返して欲しい。それだけです。
おいおいおいおい、お前、田舎大嫌い人間だろ。
と、私を知っている人は口を揃えて言うでしょう。
そうです。田舎が嫌いで嫌いで、早く出たくて仕方がなかった日々を送っていました。
今だって、お盆と年末に渋々帰省しています。←
“いつもの山との生活”なんて、どの口が言っているんだ。と言われそうで、いや、間違いなく言われるでしょう(笑)
しかし、そんな私も、幼少期のアルバムを振り返ると、何かと山Lifeなのです。
・祖父と一緒にたけのこの皮を剥いている私
・採れたてのワラビを覗き込む私
・大量のフキを運ぶ手伝いをしている私
・よく分からない大量の山菜と私
もう、それはそれは、山の恩恵を十分に受け、季節を感じた生活でした。
家中に広がる山菜の独特の香りや、車庫に積まれた大量の山菜を包んだ新聞紙と、お裾分けをしたり、持って来てくれるご近所さん。
皮剥きやアク抜き等の下処理で大忙しの母と祖母。
心の中に思い浮かぶ景色があります。
食することに関しては、残念ながら子どもにはハードルが高いラインナップばかりで、うぇーとか、げーとか、文句を言っていましたが(笑)
大人になった今は、ウドの天ぷらとか、コゴミのお浸しだとか、良さがちょっと分かってきました。
今年の夏に帰省した時に、祖母と何となく話をしていたら、今はクマが危険すぎて誰も山菜を採りに山には入らないそう。
そして悲しいことに、それならと買って食べたくても、驚くほどの高値で販売されているそうで。
「もう昔みたいにはいかないんだ。」
と、寂しそうに言っていた祖母の姿に、田舎大嫌い人間ながらも、そんな私にも、守りたいいつもの景色があったんだなぁと感じます。
クマと人間の問題に関しても、偉そうなことを言える程の知識や対策案もありません。
ただ、願うことは、せめて今ある大好きな景色は守りたい。
今子どもが見ている景色が、この子が大人になっても変わらずそこにあったらいいな、なんて。
ようやくあちこちが黄色や赤に色付いた最近、そんなことを思っていた、そんなお話でした。
今年も残りあと少しです。