見出し画像

最終面接逃げようとした私に彼の言葉が刺さった話。

今年の8月のこと。初めての内定をもらい、恋人への合格報告を楽しみにしながらデートの支度をしていた。就活を終えようと仕事紹介アプリを消そうとする中、第一志望からのメールが目に飛び込む。何事かとクリックしたら、明後日の10時から最終面接を行うとのことだった。「そういえば、4つ歳上の彼も初めての内定をもらった企業に決めたと言っていたなあ」と彼のことをぼんやりと思い出す。

日頃、第一志望の職の良さを語る私が、この時は迷わずメールを閉じる。電車に乗ると「さて、なんと言って就活を終えることをお祝いしてもらおうか」と思案する。次々に伝え方が浮かんでは消え、頭の中はさながら喜ぶ姿の飽和状態となった。すでに就活を終えた人を見ると、「自由」「気楽」「解放」などの文字が目立つ。メールのことは、頭の片隅に追いやった。

いよいよその喜び顔と対面する時が来た。行きつけの餃子屋で仕事終わりの彼が「第一志望の面接どうだった?」と柔らかく尋ねる。就活を終えようとしていた私は、少し緊張しながら「そのことだけど、最終面接に呼ばれてた。でも、初めての内定先にしようと思うんだ。嬉しかったから。」と伝えた。

彼はほんの一瞬目を細めた後、「絶対に後悔する。面接にはいった方がいい」と唸った。その間わずか1秒足らず。「俺も、楽になりたくて一番最初の内定先に行った。だから、すごく後悔したんよ。最後まで頑張れがよかったって。」「でも落ちたらさ。面接に行ったことをすごく後悔しそう」と反論してみる。「行かない方が後悔するよ。それに、落ちたら最初の内定先に後悔なく行ける。面接に行かない方が、絶対に後で後悔する。行った方がいい。」
普段温厚な彼の納得いかない声に戸惑う。冷えてきた餃子をせかせかと口に運びながら、「後悔」という二文字が心の真ん中に納まったような気がした。想像の元喜び顔からは、なんともいえないもどかしげな表情をプレゼントされた。

明後日、朝早く目覚めた私は、真っ黒なスーツに着替え面接に向かう。
最終面接は思いの他、すぐに終わり、気づいたら内定のハンコを面接官が押していた。

あの日の会話は「やって後悔する方より、やらないで後悔する方が何倍も辛いものだよ」と胸に訴えかけてくる。最後まで挑んだ私は、結局第一志望への道を選んだ。彼の言葉がいざなってくれたお陰である。
「言葉には人生を左右する力がある。」

いいなと思ったら応援しよう!