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12月14日透明資産の日

 ふぅと息を吐き、僕はめがねをそっと外しそれにそっと会釈をする。

 今日の僕のもう一つの人生は、穏やかに小川が流れ時々小鳥たちのさえずりが聞こえるとても静かな午後だった。

「おかえりなさい」

 香ばしいコーヒーの香りを携えて、注文した品を店主がテーブルに運んでくれる。ホットカフェラテとぶ厚いバタートースト。

「いかがでしたか」

 アルミの盆を腹に向けて持ち、僕に問う。熱いカフェオレを一口飲みたいなと思いながら、ほんの少し前の僕の人生を振り返ってみる。

『喫茶マーブル』

 今時、入り口の扉を開くとカランコローンと小気味よい鐘が出迎えてくれる古き良き喫茶店。店主の趣味で集めていると言うアンティークめがねが棚に並ぶ。不思議なことに、それを掛けると一瞬で視界が、世界が変わり今いる場所ではない、今生きている人生ではないどこかに入り込む。それはそのときに自分に必要な人生かもしれないしそうでないかもしれない、けれどきっと何か意味を持って、別の人生を見せてくれる。そう思って、僕は時々この店に来る。そして、めがねを掛けるのだ。

「とても穏やかでした。川辺にいるのか、さわやかな風が吹いていてさっぱりと心地よい。けれどどこかとても温かく感じて、いつまでもここにいたいなぁと思うような。そこには誰もいないのに、誰かが一緒にいてくれる、そしてきっとその人は僕を大切にしてくれている」

 そんな、心から安心できる空間だった。手放したくなかった。僕は尻すぼみの感想を言い、カフェオレを一口すする。良かった、まだ温かい。カップを置き、大きく息を吸いこんで吐き出した。左前からじんわりとあたたかな空気を感じてはっとする。

 僕がめがねの中で見たそれは、この店のこの場所の空気感とよく似ていることに気づいた。

「そう言うの、透明資産って言うらしいですね」

 店主が水のおかわりを注いでくれる。カフェオレを飲み、トーストをかじり、水を飲む。

「透明資産、ですか」

「そう、目に見えないけれど感じられるもの。これらのめがねで見るそれぞれの人生は、どこかの誰かの人生の一部です。もしかしたらその当人が、人にそう感じてもらえるようにとサービスのように透明資産を作っているのかもしれない」

 店主はにこりと微笑むと、素敵な今日をと言いカウンターに戻っていった。

 目に見えない心地よさのサービス。それはまさにこの店の事ではないかと僕は思いながら、店内をぐるりと見渡し、再びめがねに会釈をする。もしかして、僕が見たのは・・・・・・。

「そう言えば、あなたも透明資産をお持ちですね」

 カウンターから店主が言い、僕はなんのことかとそのまま聞いていた。

「いつも、この店にあるモノにあなたは丁寧に会釈をしてくれます。僕の大切なこの空間を大事にしてくれている、そう言う形のない目に見えないものをあなたは持っていて、それが透明資産な気がします。だから、今日あなたが選んだめがねの中の人生は、あなた自身の人生だったのかも」

 なんてね、とおどけるように言い、店主は再び口をつぐむ。

 透明資産は人の優しさが作る大切な、幸せの資産。

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【今日の記念日】
12月14日 透明資産の日

大阪府大阪市に本社を置き、コンサルティングやマーケティング業務などを手がける株式会社ホスピタソンが制定。同社が定義する「透明資産」とは「目には見えないけれども、人・商品・サービス・想い・空間・空気などに心地よさを感じて、その人にもう一度会いたい、そのお店にもう一度行きたい、その商品をもう一度買いたいと思ってもらえる資産のこと」。仕事でも私生活でも人が生きていく限り、この「透明資産」に気づき、磨いて、伝えていくことが大切との考えを広めるのが目的。日付は同社の創業日(2011年12月14日)であり、「透明資産」という言葉に行き着いた日から。「透明資産」は同社の商標登録。※画像は左から「透明資産実践ビジネス活用術書籍」「透明資産の日ロゴ」「透明資産マーケティング実践会ロゴ」。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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