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12月3日プレママの日
『毎日抱きしめて大好きと伝える
笑顔でいる
話を聞く
怒らない
泣かせない
寄り添う
一生無事に育つこと』
受付に残された忘れ物の母子手帳の裏表紙に書かれていた手書きの文字。進藤様が取りに来られます、とメモ書きもある。
なんと素敵だろう。母子手帳の中ではなく、人目に触れるかも知れない裏表紙に書くくらいだ、心に刻んだ理想の子育てではないか。
プレママかな。これから生まれる我が子を今のうちからどれだけ愛しているかがよく伝わってきた。
産婦人科の受付をしていると、色んなママに会う。多くのママはとても穏やかで、どこか幸福感がにじみ出ていて、見ていてほくほくと心が温まる。
院長先生はとても朗らかな男性で患者さんのファンも多い。産前産後のママやパパ向けとはべ、子育てに悩みを持つ人向けの相談会を月に1度行い、毎月大人気なほどだ。
けれどこれはつまり、それだけ悩みを持つママパパが多いということ。
子育ては、幸せなだけじゃない。
悩みとは理想や予想、仮定などがもともとあって、でもそれに届かなかったり、思う通りにならないとき、「なぜ?」と思うことから始まっていると私は思う。そのなぜ?が多い1つが子育てでもあるだろう。
それでも、理想を持って子供を愛したい。
ピンポン、と外からの呼び出しが鳴る。進藤様だろうか。従業員扉を解錠してみると、両手に2人の子供と手を繋いだ女性が立っていた。
「すみません。進藤と申しますが」
名前を聞いて母子手帳の彼女だと分かった。が、プレママ、ではないようだ。
「母子手帳ですね。お持ちします。寒いので中に入ってください」
玄関口に案内し、椅子を用意してお待ちいただいた。手をつなぐ2人の子供はどちらも男の子で未就学児のようだった。
「こちらでお間違えないですか」
手渡して確認いただく。彼女は柔らかく笑ってありがとうございますと言い、その場を立った。その微笑みには、悩みよりも幸せのほうが滲んでいるように思えて、私は思わず声を掛けてしまった。
「あの、子育てで大切なことって何ですか」
彼女は一瞬驚いていたが、私の少し大きめのワンピース姿に気づいたのか、また微笑んでくれた。
彼女は7つを言うだろうか。
それとも、私は何を聞きたいだろうか。
「一生無事」
そう言って、2人の子の頭を優しく撫でた。
「一人目が産まれる時に、誓おうと思って色々決めたのが、手帳の裏表紙の7つなんだけど、そんなにうまくはいかないのよね」
私は、2人の子が嬉しそうに彼女の手に触れているのを見ていた。
「今回も書いてみたけど、既に無理な気がしているわ。理想は理想として、立てておくけれど、きっと本当に大切なことは1つでいいんだと思う」
彼女も子どもたちを愛しそうに見る。
「あまり色々考えずに、この子達が一生を無事に生きてくれればいいのよ。私に出来るのはそれを一生かけて見守ること」
お礼を言うと、あなたも楽しみねと彼女は微笑んだ。それに反応したのか、私のお腹は大きくうねり、幸せを感じさせる。
一生、無事に育ってくれれば、育てることができれば、それを見守ることが出来るなら、それが全て。
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【今日の記念日】
12月3日 プレママの日
プレママとはこれからママになる妊婦さんのこと。ベビー総合専門店「ベビーザらス」を展開する日本トイザらス株式会社が制定。日付は国内第1号店の新浦安店の開店日が12月3日であることと、12と3で「いいにんぷさん」と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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