6月11日 梅酒の日
君と迎える梅雨はこれで何度目だろう。
何だか妙なトーンでこんなセリフを言うものだから、もちろん素面ではないんじゃないかなーと思っていたら、久々に彼はお酒を飲んでいた。
チョーヤの梅酒。
テレビに映る梅雨入り予想の話を見ていて、丁度ふと思ったのだろうと推測する。
「12回目だよ」
私がしれっと答えると、彼は驚き指を折って数え始めた。
「えー、だって結婚してからって」
「今年で9年経つよ。でも付き合っているときも合わせるともう12回目の梅雨だよ」
梅雨を毎年の記念日のように数える人もいないだろうけど、12回目の梅雨と自分で言てみて、なぜだか気持ちが浮かれる。
珍しく子どもたちは21時過ぎにはすんなり眠ってくれたので、私は予定していた家事やら学校で使う水泳道具の名前付けやら、なにかと進めていた。小学1年生と3歳ともなれば、親とべったりとはならなくなってきたようで、少し寂しい。寂しいと思って夫も見る。
梅酒で酔うとは我が夫ながら可愛いな。
「可愛いとはなんだよう」
うっかり声に出てしまっていたようで、遅まきながら口を噤んだ。
台所にふらりと向い、クラッカーにクリームチーズといぶりがっこ少しをのせて、皿に並べ彼のもとへ静かに酔った。
「はいどうぞ」
「お、いいね!女将さん」
まるで日本酒でも呑んでいそうな口振りなのに、手元の梅酒がやっぱり可愛い。
「お客さんにもらってさ、たまには飲んでみようかなと思って。そしたら何だか懐かしくなってきた」
彼はグラスの中の氷をカラコロと揺らしながら、そして私はその彼を見て、きっと同じものだろうその懐かしさの正体を探す。
昔は私のほうが梅酒好きだった。彼と参加する飲み会では大体いつも梅酒を飲んでいた。いつもそればかりだと彼は笑ったけれど、彼はカルピスサワーばかりだった。
「あなたはいつもカルピスサワーだったね」
「ああ、それも懐かしい!」
そう言って彼は笑い、梅酒を口にした。
10年と少し、それだけあれば色々変わる。彼は仕事を変えたし、私は職種を変えた。
私は母になり、彼は父になった。
これだけ環境が変わったのに、私の中身はほとんど変わっていない。変わった実感などないのに、昔を思い出すと懐かしさを感じるのだから、やっぱり変わったのだろう。
何だか切ない。
「なんだか切ないね」
私は少し目を潤ませる。この時期は情緒が少しぶれやすい。
「君も少し飲みなよ」
彼は優しく私を誘う。
「お酒、今は飲めないのよ」
私は優しくお腹をさする。
彼も気づいたようで、なんだか少し目が潤んでいるかもしれない
「10年経って、色々変わった気がするけれど、変わらなかった気もするよ。この次の10年もまた同じ感じだといいな」
私が言うと彼はぎゅっと抱きしめてくれた。
「そうだね。この子が産まれて、娘二人ももっと大きくなってやっぱり色々変わるよ。だから、楽しみだね、次の梅雨も。きっとまた梅酒を飲んで」
彼がそんなことをしんみり言うので笑った。梅雨が楽しみになる。そんな事があっても面白いなと思いつつ、この先のそんな記念日を愛しく思う。
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【今日の記念日】
6月11日 梅酒の日
高品質の梅酒の美味しさを多くの人に味わってもらうことを目的に、大阪府羽曳野市に本社を置く梅酒のトップメーカーであるチョーヤ梅酒株式会社が制定。日付は雑節の入梅の日としており、6月のこの時期に梅酒の原料となる梅の収穫がピークを迎えることと、この頃より梅酒を飲んで夏を元気に乗り切ってもらいたいとの思いが込められている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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