5月29日 幸福の日
伯母が結婚するらしい。
PCに映るピーターラビットのぬいぐるみを見ながら私は思いを馳せる。
独身貴族でバリバリ仕事をするイメージが強かったので、結婚すると聞いて私は驚いた。
けれど反面、伯母は愛に溢れた人である。
子供の頃は会えば必ず一緒に遊んでくれたし、祝い事には必ず連絡をくれ、贈り物もよくもらう。伯母の妹であるつまりは私の母を介さずに連絡をとって出掛けたことも幾度となくある。
めちゃくちゃ仲が良い。
それでも仕事をバリバリこなすキャリアウーマンなイメージが強いのは、多分彼女の仕事をする姿を見たからかもしれない。
年に一度開催される、伯母の勤める会社の「家族訪問の日」と言うイベントで、以前何度かお邪魔したことがある。大抵の年では私が幼いこともあり、彼女が常に一緒に回ってくれていたが、中学2年の時に一度だけ、伯母と離れる時間があった。
仕事のトラブルがあったらしく、1時間だけ自由行動を頼まれた。が、私はどこにも行かず、執務室の隅で彼女の仕事ぶりをずっと見ていた。
トラブルは彼女の部下だろう男性社員が、発注ミスをしたことが発端のようだった。予定より遅れることになった納品により、作業時間が短くなり、客先への販売も遅れそうだと言う。さすがに大変そうなのは私にも分かった。
けれど伯母は爽やかに笑った。
「そっか、分かった!大丈夫!」
と、渦中の男性社員にそう言って微笑みかけた。その後で数分何か考えたかと思うと、今度は次々に電話を掛け、その都度謝罪と対応策、お詫びの提案らしきものを伝えていた。もちろん先方が何を言っているかなどはこちらに分からない。もしかしたらめちゃくちゃ怒っていたのかもしれない。
けれど電話の最初こそ厳しい顔つきであった彼女の表情は、時間が経つに連れて柔らかくなっていくのが目に見えた。恐らく、先方が微笑んでくれていたのだろう。
うまくフォローが出来ていたのだった。
ひと通りの対応に要した時間はわずか30分にも満たず、当事者の彼はしきりに謝罪をしていたが、それも伯母がなだめるとやはり彼も微笑んだ。
伯母は、これだけの人たちに信頼され、それだけでなくきっと多くのお客様にも愛を渡しているのだと分かった。
こんな人に、私もなりたいと思い彼女を目指して勉強を始めたのだ。
まだまだ彼女の足元にも及ばないけれど。
そう思いつつ、彼女の幸せを願い、私はenterを押した。
近頃の電報は可愛いデザインが多い。彼女の好きなピーターラビットのぬいぐるみ電報まであるのだから驚いた。
祝いの文章を打ち込み、送付を発注する。
感染症が流行っているこのご時世。遠方に住む彼女に直接会いに行けないのがもどかしいけれど、私の代わりにピーターが祝いに向かってくれるのならばそれも素敵である。
喜ぶ伯母の顔が目に浮かび、何だかここに彼女を感じる。
そんなこと、あるわけないんだけれど、遠くを近くに感じ、ちょっと泣けた。
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【今日の記念日】
5月29日 幸福の日
世界中の人々が幸せで平穏に暮らせることを祈って、5と29の語呂合わせから「幸福の日」を制定したのは佐川ヒューモニー株式会社。同社は電報サービス(VERY CARD)や、慶弔関連のギフトサイトを運営している。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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