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4月16日 エスプレッソの日
『エスプレッソのように生きています』
なんて公言にしたら、誰か共感して友達にでもなってくれるだろうか。いないかな。
しょうもないことをただ悶々と考えている本日の昼休憩。とは言っても14時を過ぎた頃である。
最近気に入りの喫茶店でサンドウィッチとエスプレッソを頼んだ。
大抵、私はこの店でカフェオレを頼んでいる。けれど何となく今日はエスプレッソにした。メニューを見ているとそれについての説明が載っていたのだ。
『エスプレッソとは、専用のマシンで豆に蒸気による圧力をかけて短時間で一気に抽出したコーヒーのことである』
圧力をかけて一気に抽出される、この一部分が目を引いた。
まるで今の自分ではないかと思えてしまった。そう思うと、なんだか気持ち嬉しくなって思わず冒頭のそれを頭に浮かべたのだが、別に口に出すわけではない。
「それで?」
昼休憩をとる数時間前、上司である柳下課長は私の報告書を確認し、短時間で読み終えるとそう一言口にした。
「えっと、つまりそちらの報告書に記載した通り・・・・・・」
私は言葉を詰まらせながら彼の言う『それで?』に対する答えを模索する。その時間が数分続いたりする。
まず、うまく答えられない自分の問題がある。それはもう、十分認識しており改善すべく勉強中である。それを考慮して、提出時には頭の中でQAを作って行くのだが、大抵玉砕する。え、そこなの?とか、それも?とか、予想の上を行く質問が多く、結局フリーズしてしまう。
こんな時、彼は容易に答えを出してはくれないのだった。
それは私の為なのか、それとも単に待っているのか。
その時間、私にとっては圧力を掛けられているように感じて仕方がない。沈黙が続く中、早く答えようと思うほどに頭の中で思考がぼやけていく。まとめようと思うほど、言葉は散らばっていくのだった。
「えっと、その・・・・・・」
言葉に詰まることが続くと、さすがの上司もため息をつく。その息で、私の口からは弱い言葉が抽出される。
「の、後ほどご説明いたします」
思い出す度に胸なのか胃なのか、苦しく感じてしまう。
「エスプレッソです」
いつもの店主がカップを持ってきた。今日の彼の眼鏡はスクエア眼鏡のようでよく似合っている。店主の収集しているアンティーク眼鏡の展示もあってこの喫茶店を気に入っていたりする。
「いかがしましたか?」
店主が柔らかな声で言う。なんのことかとぼんやり顔を見ると、彼はニコリと微笑んだ。
「エスプレッソはこのようにカップ半分です。いつものカップたっぷりのカフェラテとは違う。何かありましたか?」
私のことを知っているのか、いつもと違うと心配してくれているようだ。
「いえ、まぁ、たまにはと思って」
「うん、そんな日もありますよね」
私はカップに指をかけ、口元に運ぶ。
「エスプレッソは強い圧力をかけて抽出されるものです。だからコクがあって美味しい。コーヒーだけじゃない。圧力に勝って絞り出されるそれは、とても強い力になると思います」
再び店主がニコリと笑う。
私はどこか気恥ずかしくも、コクリとエスプレッソを喉に落とした。心地よい苦味が香り、これが自分の力になるのだと、少しだけ分かった。
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【今日の記念日】
4月16日 エスプレッソの日
コーヒーマシンなどを手がけるデロンギ・ジャパン株式会社が制定。イタリアの豊かなカフェ文化のひとつエスプレッソの普及が目的。エスプレッソは1906年4月に開幕したミラノ万博で、Bezzera (ベゼラ)社が Caffe Espresso(カフェ エスプレッソ)と表記したのが始まりとされる。日付はイタリア国際カフェテイスティング協会が定めた「イタリア エスプレッソ デー」を日本で最初に行った4月16日から。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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