6月30日 夏越ごはんの日
昨日からの雨が一晩中降り続いていた。夜が明け、まもなく10時だと言うのにいっこうに止む気配がない。
もしかしたら一生降り続けるのではないか。そう思ったら、私は急いでいすを持ってきて窓際に置き、座って窓の外を眺めることにした。
一生続くかもしれない雨を見届けてやろうと思ったのだった。
そうして目を閉じて、耳で雨を感じる。見届けると言いつつも目は閉じているが問題ない。ザーザーと言う普通の雨音と、その中に混じるピチャンと違う雨音。それだけがどこか地面ではないところに当たったのだろうか。時々鳴るピチャン、に私は意識を集中させる。次のピチャンを待つ間に思うのだ。この梅雨時期、私はいつもこんな感じになる。
今年の4月に新しい部署へ配属になった。当たり前だが、これまでと全く違う業務内容で、本当に一から仕事を覚えなくてはならない。これがまたうまくいかないのだ。そもそもが忙しい部署であり、その中で仕事を教わるのも一苦労である。忙しないし分からないし、分からないし忙しない。やがて自分が何をするのかが分からなくなった。
だからもう、何もやりたくなくなってしまったので、今日は仕事を休んだ。異動して初めての有給を取った。
どうにも頭の中のもやもやが晴れない。まるで今見ている『一生降り続く雨』のようである。
止まない雨はないとよく聞くけれど、それはあくまで今のところだろうといつも思う。もしかしたら今後、そんな雨が実際にあって、まさに今かもしれないけれど、そうだったらどうするのだろう。雨が降り続いて、その雨がどんどん溜まっていき町中を覆い尽くし、そうなれば洪水や津波どころの騒ぎではない。逃げようがないのである。
そしてこの雨が、実は雨ではなくて私のこのモヤモヤだったら?
自分の中で急に沸き起こったマイナスのファンタジーに驚きながら目を開ける。
こんなモヤモヤドンヨリが降り続くのか!?
そう思うと、私は慌てて窓の外に向かって祈りを込める。
『どうか止んでください。一生続くようなモヤモヤは嫌です。この半年のモヤモヤをやめて、残る今年の半年を頑張りますのでどうかお願いします。・・・・・・ぐぅぅぅぅぅぅ』
そう祈った瞬間、お腹が鳴った。
「咲子、ご飯食べよう」
母が呼び、私はリビングに向かう。そうだったそうだった、朝ご飯を食べていなかった。
食卓を見ると、なんだか色とりどりのご飯である。
「夏越ごはんよ」
「ああ、そんな季節だね」
私は席に着きご飯をまじまじと見る。雑穀ご飯の上にはきゅうりやトマト、ツナや枝豆が乗っている。だしも置いてあるのでそれを掛けて食べるのだ。この季節、毎年食べるご飯。
「半年の疲れが溜まっているのよ、あなた。気づかない間にいろいろと気を揉んでいたんでしょう。少し休憩して、また明日から心機一転、頑張らずに頑張りなさい」
母がそう言って笑った。私も笑って返事をする。
顔を上げたその先の窓の外を見ると、嘘のように雨が上がっている。窓ガラスの外側についた雨粒が、やっと出た陽の光に照らされて虹色に光って見えた。
明日から7月が始まる。
私は厄を流すようにしてだしを入れた夏越ごはんをすする。
やっぱり今のところは止まない雨はないらしい。
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【今日の記念日】
6月30日 夏越ごはんの日
日本の食文化の中心で四季折々の行事にも密接に関係している「米」の新たな行事食として「夏越(なごし)ごはん」を提唱する公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構が制定。「夏越ごはん」は一年の前半の厄を払い、残り半年の無病息災を願うもので、粟や豆などが入ったごはんに茅の輪をイメージした夏野菜の丸いかき揚げをのせ、しょうがを効かせたおろしだれをかけたもの。日付は一年の前半の最終日にあたる6月の晦日。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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