10月24日ブルボン・プチの日
(いつもより少し長めです※2300字程度)
私はいつも、いろんな事がなかなか決められないでいる。
小学生の頃は誕生日ケーキをショートケーキにするのかチョコレートケーキにするのかで悩み、中学生になると部活動をテニス部にするのか卓球部にするか悩み、高校受験でどこを受けるのかにも悩んだ。大学も悩み、その先の就職にも悩み、何とか選び続けてまもなく24歳を迎える。
人生は選択の連続だと言うけれど、本当にそう。毎日なにかしらの選択がある。
「相変わらず決められないね」
もう今となっては当たり前のように言われる台詞は、人気のカフェでメニューを睨んで選択中の私にはBGMにしか聞こえない。涼子はそんな私を見てあきれている。
「だってさ、チーズハンバーグもおいしそうだし、日替わりのドリアもいい。明日も明後日もくるってわけじゃないから後悔はしたくないんだよ」
もっともらしいことを言うけれど、これだって常套句である。案の定、涼子はハイハイと言ってスマホに目を落とす。
常套句だけれど、いつも本当にそう思うんだもん。そう思いつつ、新たに出た明太子スパゲッティーと言う選択肢を見て再び頭を悩ませた。
一度に全部選ぶことが出来ればいいのに、と思う。例えばこのカフェのメニュー。3品までなら1/3ずつでセットに出来ます、みたいなメニューを作ったらきっともっとファンは増えるんじゃないかな。ああ、でも店員さんの手間が掛かりすぎるし、何よりきっと私の場合、今度は3つに絞れないなどと一層悩むことになるのだろうな。
じゃあ仕事はどうだろう。A案とB案とC案があるとして、いったん全部やってみましょうって、聞いたことないな。やっぱりコストとか考えると難しいのだろうか。そうだよな、そこをうまく考えるのが社会人であって・・・・・・。
「決まった?」
急に現実に戻され、すでに呼ばれて来た店員さんに向かって、私はあわてて注文をする。正直メニューは決まっていない。けれどさすがに15分も涼子を待たせている。選べないなどと言えるはずもない。とりあえず、と私はメニューを指さした。
かくして日替わりランチはおいしかった。涼子と別れ、私は少し落ち込んでいる。一時が万事、毎日はこんな感じである。涼子は大学時代からずっとつきあってくれているけれど、いつ私に愛想を尽かされるだろうかとびくびくしている。
情けないなと思いながら帰宅途中のスーパーに寄る。少し、甘いものでも食べたい。常に選択することにエネルギーを使っているからか、すぐにおやつが食べたくなるのだ。ああ、でもしょっぱいものも少し食べたいな。そう言えば、家にいちご大福があったような。じゃあ買うの止める?でもなぁ、ちょっと色々食べたい気もする。
ここでもまた優柔不断と言うか、決められない性格が出る。悩ましい目の前のお菓子コーナーにはブルボン・プチシリーズ。24種類もあるのか。私の年と同じだと思ってふいにニヤケてしまった。すると横から声がする。
「わかります、悩みますよね。プチ」
「え」
黒い髪に黒縁眼鏡のすらりとした学生風の男性は、私が何かの同士だと思ったらしく、そのまま話しかけてきた。
「甘いものが食べたいなと思うけど、こうやって並んでいるのを見るとポテトチップスも良いなと思うし。ちょっと大人ぶってプレッツェルもいいなとか思うとああ、もう決められない」
「うん、まぁ、悩みますよね」
そうそう、と思いながら私はプチを眺める。
「僕もいつも悩むんですが、ある時気づいたんです」
距離はそのままに、やや自信満々な表情で私の顔を改めて見る。
「迷ったときは全部選んでしまえばいいんです」
分かりやすいのか分かりにくいのか判断に悩んでいると、そのまま彼は続けた。
「選択肢があることはとてもすばらしいことです。でももっと幸せなことはその選択の全部を選べること!」
これです!と言わんばかりのテンションで言われ、私は妙に興奮してしまった。
全部選んでいいのか!!
「もちろん、お金も時間もお腹の具合も限られているからその時全部を一度に食べるなんて出来ないけれど、そのタイミングは別として、どれか一つを選ぶのではなく全て選んだのだと考えれば悩まずに済む」
あれ、やっぱりわかるようなわからないような。私は質問をしてみる。
「結局、全部買うってこと?」
「どっちでもいいです。今買っても買わなくても。でも全部選んだと言う事実が大切。全部選んだとして、今日はその中の一つを買うとか食べるとかにすればいい。そうすれば選ばなかったものはないので、アレにすれば良かったと後悔することもありません」
おお、ちょっと何となくわかってきたかもしれない。
「じゃあ、じゃあ、私、24種類全部選んでイイのね!で、今日はえんどうまめチップスを買って帰る」
私がたまたま視線の先にある一つを言うと、彼は小さく頷いた。私は続ける。
「でもって明日はホワイトラングドシャ!」
またも彼は頷き、少しして笑って言った。
「これ、24個全部発表しなきゃ終わらないですよね」
「ふふ、本当だね。でもプチはそれが楽しいね。全部選んで、その中から一つずつまた選んで、それが24回も出来るんだよ。幸せが24個」
私が興奮するままに話すと、彼は周りを確認して、声を潜めて言った。
「プチなら、大人買いも出来ちゃいますよ。全部選択する、を地で行くことだって出来るんだ」
私以上に興奮しているのか、顔をやや赤らめて嬉しそうに、いやもう自慢げに彼は言う。
「プチはもうロマンだね」
「小さくて大きなロマンだよ」
スーパーの中心の菓子売場で見知らぬ二人がプチを語る。
迷ったら、全部を選べばいい。
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【今日の記念日】
10月24日 ブルボン·プチの日
新潟県柏崎市に本社を置き、数多くの人気菓子を製造販売する株式会社ブルボンが制定。同社が1996年から販売する「プチシリーズ」は手軽に食べられる大きさのビスケットや米菓、スナック類など24種類。そのバラエティ豊かな品揃えと、色とりどりの細長いパッケージで人気の「プチシリーズ」をさらに多くの人に楽しんでもらうのが目的。日付は24種類にちなんで毎月24日に。同社は「ブルボン・プチの日」の愛称を「プチの日」としている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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