6月22日 かにの日
先日、うっかり、本当にうっかりくちづさんでしまったので、気を利かせた家族のおかげで、今日はかにの日。
♫とーれ、とれ、ぴーち、ぴち、かに道楽♫
それのついでに今日、私は還暦&定年を迎えた。
「お父さん、還暦と定年退職おめでとうございます。今日までお疲れ様でした!」
長女がそう言って手を掲げた。その手にはビールグラス、に入ったお茶。最近はお酒をやめているらしい。
「第2の人生に!カンパーイ」
次女の由樹も長男の秦も口々におめでとうと言ってくれる。そして、音頭をとった長女の傍らには彼女の旦那さんも来てくれている。昨年結婚したのだ。
「みんなありがとう。律樹くんも、ありがとう」
「お父さん、本当におめでとうございます」
彼はビールグラスを持ち私のグラスにカチンと当てた。とても爽やかで、明るい彼である。
「さて、乾杯も済んだし、かに食べようぜ!」
待ちかねていた秦が声を上げ、そうしましょうと妻が言う。小皿とかにスプーンを配り始めた。
「すごい、美味しそうだね」
由樹が目を輝かせて言う。そうだ、彼女はかにが好きなのだった。ちなみにかにだけではなくえびなどの甲殻類全般が好き。
「かに、久々ね」
隣の妻が密かに嬉しそうな顔でかにの刺し身を醤油に付けた。そうだ、妻も好きだった。
大きく、とろりと透き通る白に赤の差すその身は、確かに美味しそう。自分も食べようかな、などと思っているとそれが差し出された。
「はい、とうぞ」
妻が醤油をつけたそれをくれた。
私はありがとうと言い、さっそく口の中に入れた。柔らかい、既にとろけそうなその身が、自分の口の中の熱で余計に溶かされていくのがわかる。
これはうまい。
「美味しい!」
なんとうまい。
以前にもかに刺しくらいは食べたことがあるはずだが、これは絶品である。どうやら私もかに好きらしい。
「律樹くんも遠慮なくたくさん食べて」
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
そう言って刺し身を口に入れもぐもぐと、咀嚼する。呟くように美味しいと彼は言うので、それが本心だと分かる。
「ほら、みんなも食べて」
いただきます、と言いながらそれを取り、それぞれ食べ始める。
「花菜も食べなさい」
私がすすめると、嬉しそうな顔で鍋の蓋を取る。
「私はこっち食べたいの」
そう言うと、彼女は蓋を隅に置く。切れ目の入ったかにを持って湯だった鍋の中にそっと入れた。
パァッと花が咲く。
「見て、すごいきれいに咲いた!」
「ほんとだ、大きくきれいに咲いたな」
皆で鍋を覗き込み、まずはたった一本のかにの花を囲んだ。
きれいな花である。
こんなふうに、私のこれからのセカンドライフも花咲くことが出来るだろうか。そしてそれを皆は見守っていてくれるだろうか。
私は堪らず自分でかにを取り、鍋に入れた。
ぶぁっと花開く。
刺し身でも食べられるかに、軽く火を通すくらいで良いだろう。すぐに上げ、それを妻の前に差し出した。
「定年まで付き合ってくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」
私はかにの花を渡す。妻はそれに微笑み、ごちそうさま、と言う。
彼女の食べた、かにの花に差すきれいな赤が、還暦祝のそれに見えた。
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【今日の記念日】
6月22日 かにの日
大阪府大阪市に本部を置き、かに料理で有名な「株式会社かに道楽」が1990年に制定。かに料理の美味しさを広めるのが目的。日付は占星術の十二星座で「かに座」の最初の日が6月22日にあたることが多く、あいうえお・・・の50音で「か」は6番目で「に」は22番目となることから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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