4月17日 なすび記念日
発泡スチロールに小なすの浅漬け。
なぜだかよくわからないけれど、小学生の頃から、時々祖母が浅漬けを送ってくれるのだった。40cm程度の長方形の発泡スチロールの中に大きな透明の袋が広げられており、そこにぎっしりと小なすの浅漬けがあるのだった。
もしかしたら、有名な漬物屋さんや地元で人気の漬物かも知れない。新幹線に乗らなくては会いに行けない距離であり、おばあちゃんの地元のことは自分のそれとは違って分からないから、そんなこともあるかもしれない。
でも分からないので、おばあちゃんが何故、ときどき小なすの浅漬けを送ってくれるのか不思議だったのだ。不思議だったけれど、私はそれが好き。だから、とくにおばあちゃんにも聞くことはなかった。
私には兄と妹がいるが、二人とも野菜全般が苦手で、小なすの浅漬けもやはり食べないでいた。なので、私はそれはもう自由に食すのである。
母がいくつかの器にとりわけ、冷蔵庫にしまっておく。すると、台所に行くたびに、ひょいパクと食べてしまうのだ。時にはおやつ代わりに小鉢に取って1人もくもくと食べていたこともある。
そんな、小学生だった。
中学、高校に上がっても、やっぱりときどき祖母は送ってくれた。部活や勉強で忙しくなってきたこともあり、実際にはなかなか会いに行けなかったのだが、小なすの浅漬けを送ってくれることがどこか祖母との距離を近しく感じていた。
けれどここ1年、祖母から小なすの浅漬けは送られていない。私は25歳になっていた。
「おばあちゃん元気かなぁ」
私は母に言う。
「うん、元気みたいよ。佳奈がちょこちょこ施設に行って見てくれてるから大丈夫でしょう」
佳奈さんは母の妹、つまり私の叔母である。
祖母は約1年半前に倒れ、入院のあとそのまま施設に入ることになった。祖父はすでに他界しており、祖母は一人暮らしだったのだ。
「会いたいなぁ」
「そうだね、もう少し感染症の流行が落ち着いたら会いに行こうね」
昨今の感染症流行により、帰省や旅行を控えているのだが、それももう2年になる。いつまでこのままだろうと言う不安と、祖母の顔をちゃんと見たいと言う願いとがどこか胸を締め付ける。
「ちょっと出掛けてくるね」
私はそう言って家を出た。何の目的もなく駅前に向かう。
そこに、小さなおばあさんがいた。
小さなテーブルに何かを並べて小さな椅子に座っている。気になって少し近づいてみる。よく見ると色んな食べ物が並べられているようだ。
「あ」
小なすの浅漬けがあった。
透明のパックの中、ビニールいっぱいになすの浅漬けが入っている。
「いらっしゃい。それね、私が漬けたのよ」
「私、小なすの浅漬け、大好きなんです。おばあちゃんがよく送ってくれて」
私はそのパックを手にとり、財布から代金を払った。
「ありがとう。おばあさんもきっとお好きなのね、小なすの浅漬け。自分の好きなものを大好きなお孫さんに送ったのよ」
おばあさんに礼を言い、パックを袋に入れてもらい私はその場を後にする。
祖母の多分好きだろう小なすの浅漬けは私も好きであって、それはきっと祖母と私の大切な繋がり。
私はホクホクとしてそのなすびを食べるのだ。
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【今日の記念日】
4月17日 なすび記念日
冬春なすの主産6県(高知園芸連、全農ふくれん、熊本経済連、全農岡山、佐賀経済連、全農徳島)で構成する冬春なす主産県協議会が制定。冬春なすのPRが目的。日付は冬春なすの最盛期であり、4と17を「よいなす」と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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