3月28日 三ツ矢の日/三ツ矢サイダーの日
『カランカラーン』
仕事で出向いた地方の商店街、板チョコのように区切られた窓ガラスの横の扉を開けるとそれが鳴り響いた。鐘なのか、鈴なのか。
懐かしいなと思いつつ、店内をきょろきょろ見回すと店員らしき女性が現れた。
「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」
私は店内中程にあった2人掛けテーブルに座ることにした。
ほかの客は見られず、奥のカウンター席におそらく店主だろうおじいさんがコーヒーを飲みながら新聞を広げてテレビを見ているのだった。昔ながらの喫茶店とはこういうものかもしれない。私は懐かしさを覚えつつ、メニューを広げた。
「サイダーをください」
春が本気を出したような陽気の今日は、長袖では暑くなるほどであり、私はのどが渇いていた。
程なくして注文したサイダーは届けられた。
小さな白い小鉢と共に。
「どうぞ、サイダーと一緒にお召し上がりください」
その小鉢には、おそらくは缶詰だろうフルーツカクテルが小さく盛られていた。妙に嬉しく思い、私はそれを見ながらサイダーを口にした。
パチパチと泡がはじける音が心地よく、喫茶店内を眺めつつ私は昔を思い出す。
「あんまりお金もなかったからね、喫茶店になんて行けなかったのよ」
母がそう言ったのはいつだっただろう。以前に二人でやはり喫茶店に行ったときだっただろうか。
メニューを見ながら私が言ったのだ。『フルーツポンチ』って喫茶店のメニューなのかと。
私が小さなころ、お祝い事があるというと、母の作ったケーキとフルーツポンチが定番だった。なにも特別難しい作り方ではないと大きくなってから聞いたのだが、それはとてもおいしくていくらでも食べられるのだった。
「うちのはいつも決まって三ツ矢サイダーよ。それにフルーツを足していくの」
みかんやパイナップル、それこそフルーツカクテルが入っていた。時には寒天が入っていることもあり、色とりどり果物や寒天、ゼリーがサイダーの中に入っていて目で見ても楽しかったことを覚えている。時代的にナタデココが入っていたのもよく覚えていた。三ツ矢サイダーがいつも家にあったのはそう言うことかと合点がいった。そして見事に私は三ツ矢サイダー好きに育っている。
「あれ、すごくおいしかったよね。大きくなると食べる機会がないと思ってたら、この間行った喫茶店にフルーツポンチがあってね」
私が興奮して話し、そして母に尋ねたのだ。
「喫茶店には行けなかったからね、入り口のショーケースで見たメニューの中で作れそうなものを作っていただけよ」
「そうなんだね、でもすごく嬉しかったんだよ」
私がそう言うと、母はどこか照れたように優しく笑った。
「喫茶店に行けない喫茶店メニューなのに良い思い出にしてくれてありがとう」
それは紛れもなく私の中の母の味であり、喫茶店の思い出である。
ストローでサイダーを口に含むと、それはいつもの味だった。小鉢のフルーツカクテルをスプーンで掬い、口の中でサイダーに浮かべた。今度は子供たちに作ってあげよう。
これが我が家の味ですと言って。
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【今日の記念日】
3月28日 三ツ矢の日
清く、涼しく、気持ちがスーッと澄みわたる国民的炭酸飲料として知られる「三ツ矢サイダー」を製造販売するアサヒ飲料株式会社が制定。「三ツ矢サイダー」は磨かれた水、果実などから集めた香料のみを使い、非加熱製法の爽やかな味わいで、保存料を一切使わない安心安全な透明炭酸飲料。日付は3と28で「三ツ矢」と読む語呂合わせから
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3月28日三ツ矢サイダーの日
古くから親しまれている日本を代表する清涼飲料水の三ツ矢サイダー。その製造販売元であるアサヒ飲料株式会社が制定した日。日付は三ツ矢サイダーの三ツ矢(ミツヤ)を、3と2と8で表した語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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