5月24日 ブルボン・プチの日
カンッ!カンッ!カンッ!と3回ほどなったかと思うと、その後にもいくらか小さくなったカン!カン!が続いた。
放課後の人がいなくなった静かな階段は、落とし物をするには響きすぎるのだった。忘れ物、ではなくその名の通り落とし物である。
菅野りさのリコーダーがまっぷたつに割れた。
「うわっ!結構ボキッといったな、これ」
それを見て飯山荘司が言う。うわーうわーと控えめにしているつもりの大きな声もまた、校内に響くのだった。
そしてリコーダーの持ち主の菅野りさは呆然とそれらを見ている。
3階の教室から昇降口に向かう際、階段の手すりから顔と手を出して荘司を探すりさの手から、無情にもそれは離れて落ちていったのである。その先、いやその下に人がいなかっただけマシではあるが、それだって偶然の代物である。あと数十秒のタイミングがずれていたならば、リコーダーは荘司の頭に落ちていたかも知れなかった。
「菅野、大丈夫か」
「荘司くん・・・・・・」
ようやっと絞り出た声は震え、涙声にもなっている。荘司は彼女のリコーダーを手に取り、やはり足を踏み出して階段を上がり始めた。
「危ないからハンカチに包んでやるよ」
荘司はそう言ってポケットの中から青いハンカチを取り出すと折れたリコーダーを包み始めた。きゅっと結び、謎の小包となったそれをりさに渡す。大丈夫だと彼女に言うと立ち上がった。
「よし、帰ろう」
二人で昇降口に向かい、学校を出た。
「元気出せよ」
荘司がちらちらとりさの表情を伺いながら声をかけるが、りさはやはり浮かない顔をしてばかりである。それは、落としたリコーダーがもし彼に当たっていたらと考えるとその怖さから気持ちが晴れないのであったが、彼にはそう伝わらない。
「そうか、母ちゃんに怒られるのが怖いんだな」
うんうん、分かるぞとでも言わんばかりにうなづき、りさの肩をポンと叩いた。俺も一緒に謝ってやるからとも言ってくれたが、りさは首を横に振る。そうではないのだ。
「でもやっぱり怖いよな。内緒にしていても、リコーダー入れがぺしゃんこだからすぐにばれちゃうもんな」
そう言うと、うーんと悩んでみせる。が、すぐに顔を上げた。
「あ!良いこと考えた」
いたずら少年そのものの顔で何かを思いつき、荘司はりさにここで待てと言うとその場を離れた。少し先にあるコンビニに入ったようだ。
下校中の寄り道は禁止されているのにと思いながらもりさは静かに待つ。すると彼はすぐに出てきた。
「お待たせ!ほら、これをリコーダーの代わりに入れておけばいいよ!」
はい、と手渡されたのはブルボン・プチのプチポテトコンソメだった。りさがきょとんとしていると彼は説明した。
「これを入れておけば、まさか中身がこれだとは思わないから、きっとばれないぜ!」
我ながら名案であると言う表情に、りさは思わず笑った。
「ちゃっかり自分ものり塩買っているし」
「す、好きなんだからいいだろ」
ようやく笑ったりさの顔に少し驚き、口ごもる。
りさは笑い、ありがとうと言う。プチポテトをきゅっと優しく握った。
「私も好きだからいい」
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【今日の記念日】
5月24日 ブルボン・プチの日
新潟県柏崎市に本社を置き、数多くの人気菓子を製造販売する株式会社ブルボンが制定。同社が1996年から販売する「プチシリーズ」は手軽に食べられる大きさのビスケットや米菓、スナック類など24種類。そのバラエティ豊かな品揃えと、色とりどりの細長いパッケージで人気の「プチシリーズ」をさらに多くの人に楽しんでもらうのが目的。日付は24種類にちなんで毎月24日に。同社は「ブルボン・プチの日」の愛称を「プチの日」としている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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