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10月26日アルファベットチョコレートの日
お疲れ様です。そう言って庶務の花岡さんがくれたのは一口チョコレートだった。
「あ、アルファベットチョコレートじゃない。美味しいのよね、これ。懐かしい」
経理の加賀屋さんがそう言って嬉しそうに礼を言う。するとチョコレートが配られたことに気づいた他の席のおじさんたちも、それを見て和んだようで、各所で笑顔が溢れた。
「花岡さん、名前のイニシャルで配ってくれてるの?」
私が言うと、皆が一斉に配られたチョコレートを見る。
「はい。名字と名前のイニシャルで配ってみました」
花岡さんは、バレましたかと少しいたずらをしたような顔で笑い、残るチョコレートを配り終えた。15人に2つずつ配ってくれてもまだ袋にはたくさん入っている。こんな大袋もあるのかとちょっと見入ってしまった。
「近藤さん、少し残ったので差し上げますね」
視線がバレてしまったのだろうか。私は急に顔が熱くなるのを感じて恥ずかしくなる。
「ごめんね、そんなに大きな袋のアルファベットチョコレートも売っているんだなって気になっちゃって」
言い訳がましく慌てて伝えると、花岡さんがにこりと綺麗な笑顔を見せて言う。
「お子さん、小学3年生くらいでしたよね。どうぞ英語のお勉強に是非」
よく覚えていてくれたなぁと妙に感心して、そのままありがたくいただいた。
帰宅して、息子の空にチョコレートを渡す。夕飯前だから一つだけねと言付け、私は夕飯の準備を始めた。するとしばらくして空が台所にやってきた。
「お皿ちょうだい。あとさ、アルファベットがめっちゃ偏ってるよ」
言いながら、食器棚を開き、大皿を出す。そんな大きなお皿を何に使うのと聞こうとすると、空が続ける。
「なんで袋開いてるの?」
「会社の人が皆に配ってくれてね。残りを空にどうぞってくれたんだよ」
私が何故か少し得意気に答えると、空はふぅん、と言ってリビングに戻っていった。
「みんなの名前のイニシャルを配ったの?だから偏っているんでしょ」
カシャカシャとビニールの包みを外す音をさせながら彼が言う。
「その人、優しいね。イニシャル考えるってことはさぁ、名前を頭に浮かべるってことでしょ。その人は今日、会社の人みんなの名前を頭に浮かべたんだね」
なるほど、そう言われるとそう思う。私はちょっと胸が温かくなり、笑って返す。
「そうだね、そうやって考えてくれたと思うとちょっと嬉しいね。って、何個開けてんの?」
見ると彼の持っていった大皿の上には個装を剥がされたチョコレートたちがずらり。
「1個って言ったよ」
「うん、だから食べるのは1個だけだよ」
それより見てよと、彼がその皿を私に向けた。
『okaasan daisuki otousan daisuki』
皿の上のチョコに続いて彼を見ると、案の定照れている。
「僕も、お父さんとお母さんを頭に浮かべてみたよ」
そう言って、端っこの1つを手に取り、口に入れた。はい、と私にも1つくれる。
アルファベットチョコレートはもらっても、見ても、食べても美味しかった。
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【今日の記念日】
10月26日 アルファベットチョコレートの日
愛知県名古屋市に本社を置き、チョコレートやキャンディ、アイスなどの製造販売を手がける名糖産業株式会社が制定。同社の人気商品「アルファベットチョコレート」は1970年に発売され2020年に50年を迎えた。これを記念するとともに、長年愛されてきた「アルファベットチョコレート」をさらに多くの人に知ってもらうのが目的。日付は「アルファベットチョコレート」が「ひとくちチョコ」であることから「一口」を「10」と表し、アルファベットの文字数が26文字であることを合わせて10月26日としたもの。また秋はチョコレートの需要期でもある。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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