2月21日マリルージュの日
ぱっと赤を咲かせたような綺麗なバラだった。
本屋に行くために出かけたのに俺はその手前の花屋で足を止めた。
そのバラは『マリルージュ』と言うらしい。
「いらっしゃいませ。よろしければ店内にもたくさんございますよ」
「あ、いや」
自分に言われたのだと思い、慌てて首を振ってバラから離れた。どうやら店員は別の客に言ったようだった。
そりゃそうだ。俺男子中学生である。店員だって、そんな俺が花に見とれているとは思わないだろう。
でも。
「すみません、このバラを一本ください」
ちょっと勇気を出して言ってみた。店員は優しく微笑むとそのバラを手にレジに案内してくれた。
バラを手に歩くのが恥ずかしかったので、空のリュックに入れておく。大きめのリュックを持ってきて良かった。そうして、俺が向かった先は一つ。
もうすぐあいつの誕生日だから、前に花を貰ってみたいと言っていたから、俺はあいつが好きだから。あいつがそうじゃなくても、俺は好きだから。
同じクラスの片瀬ちさ、俺の好きな人である。
卒業まであと1ヶ月。俺は公立、片瀬は私立の高校に行くからお互いの進路が別れるのだ。出来ればその前にと思っていた。バラと目(?)が合った瞬間、今だと心に決めた。家は知っているし、さっき連絡をしたら家にいると言っていた。正直照れくさいし、緊張しまくりで胃がキリキリする。胸もぞわぞわしているけれど、まあ許容範囲だ。それもいい、青春だ。
とか言って自分で言うものでもないな。インターフォンを押して片瀬がでるのを待つ僅かな間に冷静になってきた。早く出てこい片瀬、冷静になりきってしまうともう居ても立っても・・・・・・。
「はーい」
「あ、斉藤です。急にごめん」
「おお、どした。今開けるね」
なんてことない。ただ会ってバラを渡すだけだし、好きだと伝えるだけだ。それだけそれだけ。
かちゃっとドアがあき、片瀬が顔を見せる。でも聞こえてきたのは片瀬の声ではなかった。
「斉藤じゃん!」
「え」
同じクラスの水口優矢だった。
「み、水口?」
「ねー、聞いてよ、水口、急に来たんだよ。ママもびっくりだよ」
そう言って片瀬は水口の肩を軽く叩いた。いてーよ、と水口も軽く叩き返す。片瀬も水口も嬉しそうに、けれどそれを隠すように笑ってみせる。水口を見る片瀬の頰はバラのそれのように鮮やかで赤かった。
ああ、これはと思ってしまった。
「どうしたの、斉藤」
片瀬が言い、俺は笑った。
「あー、資料集、借りたくてさ」
「資料集?いいよー。待ってて」
そう言って家の中に入って行った。水口も一緒に。
俺はリュックを背負いなおした。
「はい、どうぞ。月曜日に学校に持ってきてくれたらいいから」
資料集を貰い、礼をする。もう水口は出てこなかった。
「片瀬、誕生日おめでとうな」
「え、ああ、うん。あと少しでそうだねー。覚えていてくれてありがとう」
片瀬は俺にも嬉しそうに笑ってくれた。
もう、それでいいかと思ったのだ。
バラはもう間に合っていたらしい。
告げてもいないのにどこか軽くなった足取りで家路に向かう。
ちぇっ、仕方がないのでバラは母さんにあげることにする。
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【今日の記念日】
2月21日 マリルージュの日
歌手の夏木マリさんとパーカッショニストで音楽プロデューサーの斉藤ノヴ氏が代表をつとめる一般社団法人「One of Loveプロジェクト」が制定。同プロジェクトでは音楽とバラで途上国のこどもたちの教育環境の整備と、その母親たちの雇用を支援する活動を行っている。活動の趣旨に賛同してくれる生花店から夏木さんが品種改良から携わった「マリルージュ」という名の赤いバラを購入してもらうことで、その収益などを支援に当てていることから「マリルージュ」の認知度を高め、支援活動に活かすのが目的。日付はプロジェクトで毎年ライブを開いている「世界音楽の日」の6月21日にちなみ、いつも支援を続けている姿勢から毎月21日とした。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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