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5月11日 ご当地スーパーの日

(いつもより少し長めです※2400字程度)


「一湖はお店屋さんの才能があるわね」

「うん!イチコ、ばあちゃんのスーパーの店長さんになるの!」

 4歳のその宣言通り、私は亡くなった祖母のスーパーを30歳で引き継いだ。

『スーパーワン!』の店長、花房一湖とは私のことである。


「いっちゃん、おはよう!今日のおすすめは?」

 開店と同時に常連の三石のおばちゃんが声を掛けてくれる。

「おはようございます!たまねぎ、じゃがいも、人参の詰め放題やりますよ!今日はカレーでどうですか」

 私は入り口でお客様を出迎えつつ返答する。
 今日も常連のお客様は朝からやってきてくれる。

「スーパーワン!は私らの憩いの場だからねぇ」

 こちらも常連の近藤さんが来店し、一緒に花屋の笹本さんもいる。明るい朝の挨拶を受けては返し、今日も元気にスーパーワン!は開店した。

 はずだったが、1時間もすると入店客はまばらになってしまった。開店と同時にやってきてくれた三石のおばちゃんも近藤さん、花屋の笹本さんも休憩コーナーで揃ってお茶をしており、店内で買い物をしているお客様は数えるほどである。

 正直、最近の来店客の数が減ってきているのだった。来客を増やすためにと目玉となる詰め放題イベントを開催したものの、それも見込みほどお客さんは集まらない。野菜や肉の安売りをしてみるが、先日近くに出来た大型スーパーより1円安いくらいでは皆こちらには来てくれないのだった。

「せっかく見学の小学生が来る日なのになぁ」

 社会勉強の為に今日は3人の小学3年生がくる予定なのだ。どうせだったらたくさんのお客様がいる店内を案内したい。私がぽつりとつぶやくと、青果コーナーの青柳さんが言う。

「でも最近は流行風邪もありますから、結果的に今日もいつものようにぜんぜん人がいなくて良かったと思います!」

 ナイスフォロー!とばかりに言ってくれるが、そのフォローはなかなかに傷をえぐってくれるのだった。いつもお客さんが少なめだなんてことは私も分かっている。

 ひとまずありがとうと微笑み、私は事務所に戻った。


「今日は見学、よろしくお願いします!」

 11時になり、予定していた小学生3人がやってきた。元気いっぱいの挨拶を受け、若干へこんでいた私の気持ちも元気になる。

「では、みんなで品だしを体験してみよう」

 こちらの提案に、ハイ!と大きな声で返事をしてくれる。彼らを連れて青果コーナーに向かい、再び担当の青柳さんと連携をとる。

 今日は、青果コーナーの品出し、鮮魚コーナーの見学、精肉コーナーでの調理、売場整理と目白押しの企画を用意している。お客様で溢れた店舗で案内をしたかったが、青柳さんの言うとおり空いた店内で自由にできるからこの状態で良かったかもしれない。

「では次に鮮魚コーナーに向かいます」

 2つ目の企画に向かうため、再び彼らを誘導する。
 すると、目の前でなにやら倒れるのを目にした。

「あっ」

 よく見ると人である。

「大丈夫ですか!」

 小学生をその場に待たせ、私は駆け寄った。店員ではなくお客様のようである。よく見ると、近藤さんだった。

「近藤さん、大丈夫ですか」

「いっちゃん、ごめんね。薬を飲むのを忘れちゃってねぇ。ちょっとこのまま」

 そう言いながら近藤さんは目を閉じる。私は深呼吸をして、事務所に連絡を入れた。それを受けた事務員の田村さんがすぐに駆けつけてくれた。

「救急車を呼んでください。それと近藤さんのおうちの方に連絡を。携帯電話を持っていないので、2丁目の酒屋さんの角3つ目のおうちに直接行ってもらえますか」

 私は指示を出し、田村さんは頷いてすぐに動いてくれた。そのおかげで、わずか数分程度で救急車はやってきた。

「ご家族にはこちらから知らせましたので、このあとで病院に向かわれると思います」

 私が言い、救急隊員も了承し救急車は病院へ向かった。田村さんのスマホに電話をし、病院名を伝える。その場でご家族に伝えてもらいそちらも無事に伝達が終わった。

 私は大きく息を吐く。

「三石のおばちゃん、笹本さん、もう大丈夫です。病院も、前に近藤さんに聞いていたかかりつけに向かってくれるようだし、田村さんにお願いして、ご家族にも連絡がとれました」

「一湖ちゃん、ありがとう!よかったよ、私たちもそうだけど、ちゃんと近藤さんのことも知っていてくれたからこう、スムーズに進んだんだ」

 わずかに涙を滲ませるようにして三石のおばちゃんが言う。うんうん、と笹本さんも頷いている。

「いえ、これもみなさんのおかげです。いつも私にいろんなことをお話ししてくださるので、私もみなさんのことが知れて良かった」

 思わずつられて涙も出そうになるが、ぐっと堪えておいた。私は彼女たちに礼を言い、くるりと振り返る。

「では、お待たせしました。次のコーナーに向かいましょうか」

 私は待たせていた小学生たちに声を掛けた。すると、1人の女の子が拍手をくれた。

「店長さん、お客さんのことを良く知っていてすごい!ヒーローみたい」

 その小さな手にはノートやペンが握られているのに、その上でパチパチと手を叩き、拍手をくれる。他の2人もまた、うんうんと頷き、やっぱり拍手をくれた。

「さすがいっちゃんね!」

「こんな店長さんや店員さんがいるなんて、安心出来るスーパーだわ」

 気づけば3丁目の石田さんに斉藤さんもいる。私は恐縮しきりで困り笑いをするしかない。

「ほら、ね。混雑するほどの満員スーパーだとこういうこともなかなか出来ないと思いますよ。店長だってきっと手が回らなくなってしまう。お客様の数が多いのも良いですが、それよりも店長が従業員とお客様、みんなの顔が見られる距離にいてくれる方がもっとずっと素敵なスーパーだと思います」

 青柳さんが、これだ!とばかりに素敵な台詞を言うものだから、私はやっぱり少し涙が滲む。


 お客様もさることながら、私はなんて素敵な仲間と働いているんだろう。この地域のスーパーで良かった。おばあちゃんがこのスーパーを作ってくれて良かった。
 そしてちょっと打算的だけれど、これが小学生の社会科見学の日で良かった。少しでも温かな人で溢れるこの地域で仕事をしてみたいと思ってくれるといい。

 そうして、この小さなスーパーから、ずっとずっと先まで温かい未来がつながっていくといい。

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【今日の記念日】

5月11日 ご当地スーパーの日

全国各地にある地域に根ざしたご当地スーパーと、その土地ならではの食品を製造するご当地食品メーカーを応援し、日本の豊かな食文化を守り伝えていくことを目指す一般社団法人全国ご当地スーパー協会が制定。地元色豊かなローカルスーパーの「ご当地スーパー」の魅力を、より多くの人に再認識してもらうのが目的。ご当地スーパーバスツアーなど、さまざまなイベントを通じてご当地スーパーを愛する人を増やしていく。日付は5と11で「ご(5)とう(10)ち(1)」と読む語呂合わせから。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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