6月3日 くるみパンのひ
くるみパンのくるみが好き。
パンの中にぎっしり詰まったくるみを指でむしるように取り、小さな山になったくるみを一口に食べるのだ。かりこりもっくもっくと口いっぱいに食べるのが至高。くるみに少しくっついてきたパンのかけらが甘味を足してくれる。くるみ単体ではなし得ない美味しさである。口の中をそれでいっぱいにすることで五感全てで幸せを感じるのである。
もちろん、くるみのなくなったパンだって負けていない。くるみの優しい香ばしさや甘味がじんわりとパン生地にしみいって、それはもう美味しいのである。
好きで好きで好きで。
その結果、私、パン屋さんになりました!
「いらっしゃいませ!あ、翔太くん、おはようございます」
「パン屋さん、おはよう」
「おはようございます」
彼の母親も穏やかに微笑み、挨拶をくれる。私も会釈して返す。
毎週木曜日の朝一番、彼らは決まってやってきてくれる。以前聞いたところでは、幼稚園の始まる時間が木曜日だけ遅いらしく、ちょっと贅沢なモーニングのつもりで来店してくれているらしい。イートインスペースを設けて良かった。とても嬉しい常連さんである。
「もう焼けた?」
「うん!丁度焼けたところだよ!いつもの一つでよろしいですか?」
私が聞くと、満面の笑みで頷いてくれた。それはもうすでに食べて美味しかったと言ってくれるような笑顔。パンを運ぶ手にも力が入る。
「はい、焼き立てのくるみパン!」
「やったー!いい匂い」
嬉しそうに笑い、トレーに一つ乗せた。お母さんはサンドイッチを手に取り、二人でレジに来る。
「コーヒーとオレンジジュースもお願いします」
モーニングサービスのヨーグルトをつけて机に運ぶと、彼はまた元気よくいただきますと言う。そして、くるみパンを食べる。私と同じようにして。
「もう、またそんな食べ方して」
「えー、だってこの方がくるみたくさんで美味しいんだもん」
分かる、わかるよ。そしてお母さんの言うことも分かる。
と、言うことで少し工夫しました。
「はい、こちらをどうぞ」
私は彼に小さなカップを手渡した。
「あ!くるみだ!」
「そう、これね、少し味をつけてあるから、そのまま口の中にたくさん入れてモグモグしても良いし、やっぱりくるみをパンからとって食べたいんなら、そうして残ったパンとこれを食べればいいし、あとはここ」
くるみパンの真ん中に凹みを作っておいた。そこに追いくるみを入れられるように。
「この店では自由に食べていいよ」
私がそう言って笑うと、彼は喜んでくれた。
「何だか自分で作るパンみたい」
その笑顔を見てふと思い出した。私のくるみパン好きとその食べ方を知って、母はもういっそ自分で作って食べなさいと言ったことがある。そして私は言われた通り、自分で作って好きなだけ好きなように食べたのだ。
今思うと私がパン屋さんを目指すきっかけはそれだったかも知れない。
「そう、自分で作って好きなように食べてね」
彼は笑い、お母さんも笑ってくれた。
好きなパンを好きなように食べてもらう。私はくるみパンを作りながら、そんな素敵な場所を作ったのだ。
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【今日の記念日】
6月3日 くるみパンの日
日本におけるアメリカのカリフォルニア産のくるみの最大の用途が製パンであることから、定期的に「くるみパン」に親しんでもらおうと、カリフォルニアくるみ協会が毎月3日に制定。日付は「毎月来る3日」を「毎月来るみっ日(か)」と読み「くるみ」にかけて「くるみパンの日」としたもの。くるみはビタミンやミネラルなど健康に過ごすための栄養成分を多く含む食材として知られる。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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