6月21日 えびフライの日
内定祝いに母が夕飯にえびフライを作ってくれた。
「さ、ご飯だよ」
母の声かけで私たちはリビングに集まる。今日は一人暮らし中の姉も帰ってきているので家族勢ぞろい。母のえびフライパワーはすごいのだ。
テーブルの上には箸と取り皿、サラダのみが並んでおり、肝心のえびフライはまだそこにない。
「花菜、ご飯よそって、由樹、ソースとドレッシング持って行って、秦、お味噌汁運んで」
指名され、私たち3人は揃って台所に向かう。
何年か前にはふつうの光景だったなぁと、姉と弟の背中を見てわずかな時間で懐かしむ。いつのまにか姉は就職して家を出ているし、それに続くように私も来年から就職し、秦は大学生になる。
ここ数年、だんだんと家族の形が変わっているのを実感している。母と父もそうだ。昔は家族で出かけるとしても体を動かすような場所にみんなで行っては一日中遊び倒していた。
最近はこんな風に家で食事をするか、たまに何かの記念日や誕生日にどこかのレストランを予約して食事をする。旅行に行くこともまれになった。元気に遊び回るのではなく、落ち着いて一緒にいることを選択する。
「はい、みんなありがとう、じゃあ、座って待っていて。もう揚げるからね」
そう言われ、私たちは席につく。出かけていた父がタイミング良く帰ってきたが、きっとそれにあわせて母はえびフライを揚げだしたのだろう。これは後から帰ってくるのが父だからではない。誰であっても、きっと後の人にあわせて料理を用意するのが母なのだ。
『温かいものは温かいうちにおいしく食べなさい』
そう、小さい頃から母に言われてきたので、温かいものが食卓に並ぶときは全員がちゃんと並ぶときなのだ。友人に言わせるとそんな母は優しいのだそうだ。自分の都合で作ってしまえば良いものを食べる人のことを思ってそうしてくれるなんて素敵な母親だと何度か言われたことがある。
うん、私もそう思う。
自分が母親になるときには同じようにすると決めている。
「はい、できたよ」
母はそう言って、全員揃った食卓の真ん中、大きな揚げたてのえびフライの皿をドン!っと置いた。
「おっきい!!!おいしそう!!!」
思わず立ち上がって上からそれを見た。
「今日はお祝いだし、久々にみんな揃っているしね。さ、温かいうちに食べましょう。」
いただきます、と言う声も揃って、四方から真ん中に向かって箸が飛び出した。一つとって、がぶりとかぶりつく。
「あー、おいしい」
私がその太いえびの身を口の中で強く租借しているとそばで母が笑う。
「由樹、就職おめでとう。来年から頑張ってね」
「まだ内定だけどね」
少し気恥ずかしく思いながら私はありがとうと言った。父は缶ビールをプシュッと開けている。
「いやほんと、良かったよ!今日はお祝いだからたくさん食べなさい。あ、でもケーキがあるからそこそこにな」
さっき父が出かけていたのはケーキを買ってくれていたのか。向かいに座る姉が喜ぶ。秦は黙々とえびフライを食べている。
皆を見て、母が笑う。
「みんなえびフライが好きねぇ」
そう、私も兄弟もえびフライが好き。
そして、その大好きなえびフライを囲むこの家族が好き。
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【今日の記念日】
6月21日 えびフライの日
香川県三豊市に本社を置き、各種の冷凍食品の製造販売を手がけ、全国の量販店、コンビニ、外食産業などに流通させている株式会社「味のちぬや」が制定。多くの人が大好きなえびフライの記念日をきっかけにしておいしいえびフライをもっと食べてもらうのが目的。日付は曲がったえびの形が6に見えることと、21をフ(2)ライ(1)と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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