10月23日家族写真の日
思い出を残すために、毎年結婚記念日であるこの日に写真を撮る。今年でもう30回目だ。
私の思い出は夫の思い出であり、早々に子供たちの思い出にもなった。3人いる子供たちのこの『家族の思い出』はいつしか、『家族だった思い出』に変わる年がくるのだろうなと思ったのはいつだっただろうか。時が経つのは早いもので、あっと言う間に今年がその年になってしまった。
「本当に洋子さんは呼ばなくていいの?」
「うん。洋子がその方が良いって言ってくれたんだ。家族水入らずの日にしておいでって」
長男の光一がどこか照れるようにそう言った。自分のお嫁さんになる人が気遣いの出来る、優しい人であることに自分で喜んでいるようだ。実際、先日会わせてもらった洋子さんはとても気だてが良く、朗らかな人だった。来年の春に光一と結婚すると聞いて私も夫も喜んだ。彼女さえ良ければ、今日一緒に家族写真を撮らないかと息子を通して聞いてもらったのだが、どうやら遠慮してくれたらしい。有難いことだった。
最後の家族写真。子供が巣立つ時を最後にしようと結婚した当初に夫と決めていたのだ。先日もその話をしてお互いに納得している。けれどどこかで、この5人の家族と言う形はもう来年にはないのだと思うと、胸が締め付けられるように苦しい。
「母さん」
光一が私を呼ぶ。写真館の前で、私の足は止まっていた。どうしたのかと長女の明梨が私の顔をのぞき込み、私は思わず夫を見た。夫は、困ったように笑い、時々そうするようにして私の頭にポンと手のひらを乗せた。
「5人で撮るのは今年が最後だけどさ、4人はまだ続くでしょ」
「え」
私は驚き、もう一度夫の顔を見る。すると今度は次女の茜が口を開いた。
「さっきちょっと話していたんだけどさ、家族写真は続けてもいいんじゃないかな」
「そうそう、お兄ちゃんがいなくなるだけで、私たちはなにも変わらないしね」
同調するように明梨が言う。これに光一が言い返す。
「いなくなるってひどいなぁ。俺は俺で洋子と家族写真を撮るんだよ」
のけ者にしないでよと、夫と似た困った顔で笑う。私は少し混乱し、どういうことなのかとやはり夫を見た。
「みんな、1年に1度の家族の記録を残したいんだって。だから、続けてもいいよね。それに光一は別の家庭を持ってそこで記録を作っていくって言うんだから、すごいよね」
「すごい?」
「だってさ、ひとつの家族写真からもう1つ、家族写真が出来るんだよ。それって、1本の幹から新しい枝が出来るみたい。明梨や茜が結婚して巣立っていったとして、またそこで写真が増えて新たな枝が育って、どんどん大きくなるじゃない」
夫は嬉しそうに笑って言う。私はようやくゆっくりと息を吸い込む。
そして、家族は減るわけではないと気づく。枝分かれしてむしろ増えていくのだ。そしてそれを年に1度のそれぞれの家族写真が記録していってくれる。1枚の家族写真が増えていき、いつしか大きな木になる。それは永遠に成長していく木になるだろう。
私はそれを想像して笑う。それに反応して写真館の自動ドアが静かに開いた。
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【今日の記念日】
10月23日 家族写真の日
妊婦さんから未就学児までの家族の思い出写真作りを行う一般社団法人日本おひるねアート協会が制定。毎年5万人ほどの赤ちゃんを撮影している同協会では、赤ちゃんだけの写真は多いが両親と写っている写真が少ないことに気づいた。そこで記念日を通して多くの人に「家族写真を撮る」という習慣を作ってもらうのが目的。家族が集い写真を撮ることで、家族の歴史を一年に一度刻んで欲しいとの願いが込められている。日付は10と23で「撮(と=10)ろうファミリー(23)」の語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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