9月9日 ポップコーンの日
映画を見るのが好きだった。
若いときにはそれこそレイトショーなんかを1人で見に行っては2時間ほどの時間をまるで別の世界にいるように感じて、幸せだった。
小さな子供がいる今では、なかなかそうも行かない。
「ママ!どこ行くの!?」
「・・・・・・トイレです」
特に近頃の3歳娘は、色々な『期』が重なっているようで、どこにいくにもついてくる。そのくせ一緒に行こうとすると1人で行きたいと言うのだ。イヤイヤ期と自分でやりたい期、ついでにパパイヤ期も。2歳の時もあったからまだ続いているのかと思うと出口が見えないでいる。
「ママ!アイスクリームやさんごっこしよう」
そう言われ、アイスを注文する。
「次はレストランね」
オムライスください、と言うとハンバーグが出てきた。
まぁ、こんな風に子供と過ごす時間もきっと多くはないのだから、十分に堪能しておこうと思える。
「はーい、映画がはじまりますよー」
「え、香奈、映画知っているの?」
私は娘の口から『映画』と言う言葉を初めて聞いた。
「うん、知ってるよ。今ね、香奈は映画屋さんなのよ」
映画屋さんとはなかなか聞かないけれど、これはちょっと良いかもしれない。
「映画屋さん、何の映画をやっていますか?」
「うさぎさんとかめさんのお話ですよ」
私が聞くと、娘はうさぎとかめのぬいぐるみを持ってきては自分で動かしてお話を始めようとする。
「ねぇねぇ、本当に映画屋さんになりませんか?」
私はそう言って誘いだす。
すると、彼女は目をキラキラさせて元気良く「なるー!!」と食いついてくれた。
私は準備を始めた。彼女の好きなアニメのまだ見ていない録画番組がある。内容はそれにしよう。そして、映画屋さん、もとい映画館の設定なので、ちゃんとチケットも作ろう。
私は折り紙を取り出すと、娘と一緒にはさみで切って簡単なチケットを作った。切り取り線にはつまようじで穴をあけて、ちぎれるようにする。もちろん席番号も記載して、同じ席を用意する。
「いらっしゃいませ」
「あ、映画はここですか?」
「そうですよ、こちらです」
私がとぼけて聞くと娘は店員になりきって答える。そして案内された席に座り、私は大事なものを忘れていることに気づいた。
「あ!ポップコーンだ!」
そう、映画に欠かせないのはポップコーンである!私は大好きなマイクポップコーンを家に常備しているので、もちろん今日もある。バター醤油がたまらない。
おやつ用のプラスチックボウル2つに山盛りに入れ、娘にはリンゴジュース、私は炭酸を準備する。
ポップコーンを抱え、テレビ画面の前に座った瞬間、私の心は晴れた。
もしかして、映画が見たかったわけでも、1人きりになりたいわけでもないのかもしれない。
私は『映画館でポップコーンを抱えながら夢中になれたあの頃の幸せ』に浸りたかったのだ。
その証拠に、今、私は娘と一緒に家の中でポップコーンを食べながら彼女の好きなアニメを見ているが、すごく幸せだ。アニメに夢中になっているわけではなく、このシチュエーションに満足しているのかもしれない。
ポップコーンと炭酸があれば、家に幸せな映画館ができあがるのだ。
ステイホーム、万歳である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【今日の記念日】
9月9日 ポップコーンの日
「マイクポップコーン」「ドリトス」「チートス」などのスナック菓子ブランドで知られるジャパンフリトレ―株式会社が制定。記念日を通じてポップコーンの美味しさ、楽しさを多くの人に再認識してもらうのが目的。日付は、英字のポップコーン(POPCORN)の「POP」を左右を反転させた鏡文字にすると「909」に見えることから9月9日に。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。