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4月29日 タオルの日
このタオルさえあれば、と言う魔法のタオルを探している。
小さな頃、幼なじみのたっくんはいつも同じタオルを持っていた。小さなフェルトのマスコットがついたハンドタオル。それは手を拭くためではなく、彼が手に持って安心するためのタオルなのだった。
「寝るときもこのタオル離さなくてね」
たっくんのお母さんが少し困ったように笑って言っていたことも覚えている。私はそれを聞いて、いつも一緒なのかと驚いた。起きているときも眠っているときも肌身離さず持つタオル。そのタオルさえあれば安心できるという魔法のタオル。
私は無性に欲しくなり、母にタオルをねだり買ってもらった。
けれど買ってもらったそのタオルは私の魔法のソレではなかった。
「そんなにタオルが欲しいんだったら大きくなってから好きなだけ買いなさい!」
もう一度買ってとだだをこねる私に怒った母が言う。
幼稚園児だったのあのころから、16年。私は22歳、たっくんこと太一は20歳になりました。
「すごい、何枚でも買えるわ」
私が興奮しながら選んでいる横で、彼はスマホをいじる。
「いや、そんないらんだろう。早く買えよ」
つい先日、私は初任給をもらったのだった。家族に食事をプレゼントする予定であるが、それと一緒に形に残るものを渡したい。そこで私は家族にハンドタオルを贈ることにしたのだ。記念にもなって、日常でいつも使ってもらえるものである。
「よし!買ったよ」
「はい、お疲れさま。バス、間に合いそう、急ぐぞ」
そう言って彼は、今し方店員さんから受け取った紙袋を持つと、私の手を引き走り出した。ズボンの後ろポケットから見えている彼のスマホには、昔タオルについていたフェルトマスコットが揺れている。
「よかった、間に合った」
「太一、ありがとう。おかげでみんなのプレゼント買えたよ」
私は紙袋から一つの包みを出して彼に渡す。
「はい、太一の分」
「俺のも買ってくれたの。ありがとう」
「うちの家族全員と全くのお揃いは太一も微妙かなと思って、色違いで私とだけお揃いのタオルハンカチにした」
どちらかというとドヤ顔で彼に言い、私は自分のタオルを開けた。私は薄い水色、彼は薄い緑色、それぞれにイニシャルが入っている。
「太一の『T』と多香の『T』、同じイニシャルだから交代で使えるね」
彼は軽く首を振った。
「コレは俺だけのタオルだし、それは多香だけのタオルだよ。大事にする、ありがとう」
そう言って彼は優しく笑ったので、私はやっぱり彼が好きだなと思い、お揃いで買ったタオルが急に愛しくなる。
もしかして、と気づいた。
私にとって大切な太一、彼とお揃いのタオルハンカチ。
もしかしたら私の魔法のタオルはこれなのではないか。ふつふつと頭の中で気づき始め、私の鼓動は早くなる
もし、コレが本当に私の魔法のタオルなら、コレさえあれば何がどうなっても安心できるはず。
私はタオルハンカチに願いを込めて、それを持つ手に力を込めて、彼に話しかける。
「太一、あのさ、私ね」
この日から、お揃いの魔法のタオルが増えることになるが、それはまた別のお話で。
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【今日の記念日】
4月29日 タオルの日
大阪タオル卸商業組合が制定。タオルを使用する機会が増える春先から初夏にかけての需要をさらに向上させ、タオル産業を盛り上げるのが目的。日付は4と29をタオルで「良(4)く拭く(29)」と読む語呂合わせから。日本のタオル産業に携わる各種団体が連携して推進していくことを目指している。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。