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2月12日ギョーザの日

「ブロッコリーいや!」

「にら嫌い!」

「野菜は全部イヤなのよ」

 小首を傾げながら、そろそろ分かってくれたかしらと、半ば私を哀れむような顔で彼女は言った。

 相川葉月、2歳、保育園児。

 今まさに栄養を必要とする成長期まっただ中の女の子である。

 保育園では今のところご飯もおかずも野菜も食べているらしい。なんだったらおかわりだってするそうだ。毎日3食のうち1食はありがたいことに栄養士さんがついてパーフェクトな食事を食べてくれていると思うと本当に気が楽なのだ。

 だから例え、私の作った夕飯のそのほとんどを拒否して食べなくても別にいい。

 別にいいけど、それが半年も続くとそれなりのダメージになっているのだと、仕事でストレスのたまった今日は特に思う。

「ママ、ちょっとおトイレ言ってくるね」

 私がそう言うと葉月は「べろべろべー」といっておどけた。これが彼女の愛らしさである。

 朝食のトーストやヨーグルトも食べているので昼食と合わせて2食はちゃんととっている。だから夕飯くらい食べなくても成長するのかもしれないし、栄養はしっかりとれているかもしれない。そんな気はする。

 でも、ただ悲しい。

 自分の作る料理は美味しくないのか。この際料理の腕はおいておいて、このまま夕飯だけ食べないままなのか。こうしていつまでも食べ物の残る皿を片づけなくてはならないのだろうか。仕事で疲れて帰って食べもしない食事を作るしかないのだろうか。悩んでみるが、答えはでない。仕方なしにトイレを出る。

「ママ、大丈夫?」

 心配してくれたのか、顔をのぞき込んで私に聞く。その手にはティッシュ、その上にお肉が乗っている。

「うん、ありがとう。なにを作っているの?」

 ご飯で遊んではいけない!と言いたいのをぐっとこらえて聞いてみる。
「はい、ギョーザ作ったよ」

「ギョーザ?」

 ティッシュの上におかずのお肉を乗せ、それを巻いて私にくれた。それはもう春巻きではないかと思うが、それもおいておき、ぱくりと食べて見せる。

「おいしいでしょ?」

 そうに決まっていると言う顔で聞くともう一つ作り始めた。

「うーん、ご飯で遊んではだめなんだけどねぇ。はーちゃん、ギョーザ好き?」

「うん、大好きよ」

 そう言って満面の笑みを見せる。私はおもむろに立ち上がり台所へ向かうと冷凍庫を開けた。

 冷凍ギョーザがあったことを思い出したのだ。

 私はすぐに作ることにし、フライパンを出す。油も水もいらないのはなんと便利なことだろう。

「はーちゃん、ギョーザできたよ」

 ものの5分ほどで完成し、彼女に出してみた。

「美味しいー」

 葉月は笑って食べ始めた。

 もしかしたら彼女は今日、ニラ玉やブロッコリーは食べたくなかったのかもしれない。むしろギョーザが食べたかったのかもしれない。そして悔しいけれど、冷凍ギョーザは確かに美味しい。

 ギョーザのように、肉も野菜も炭水化物もいっぺんにとれる食事はなかなかない。お守りにして冷凍庫にストックしておこうと思った。

 そう逃げ場を作ると、不思議と気持ちが軽くなった。

 私もギョーザを食べる。

 うん、美味しい。

 これでいい。

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【今日の記念日】
2月12日 ギョーザの日

冷凍ギョーザを販売する味の素冷凍食品株式会社がこの日にギョーザを大いに食べて、その美味しさをもっと知ってもらおうと制定。日付はギョーザの生まれ故郷である中国では縁起の良い食べ物として、旧正月にギョーザを食べる習慣があることから。制定者は同社の冷凍餃子販促キャラクター「ギョーザる」。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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