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9月17日 イタリア料理の日

    自粛が開けたらどこになにを食べに行きたいか、なんて家族と話している。

「中華がいいな。からーい麻婆豆腐が食べたいわ」

 長女が言う。次女は何故かそれを今食べたような顔で、頭を振る。

「えー、辛いものなんてこのまま食べなくても良いよ。私はそうだなぁ、お寿司がいいな」

 次女が言う。これには長女も、いいねぇなんて同調している。

「パパとママは?」

 私と夫は少し考えるが、ほとんど同じタイミングで答えた。

「イタリアン!」

 答えが重なったことに妙な気恥ずかしさを覚えつつ、私は笑った。長女も次女も不思議そうな顔をしている。

「イタリアンって、家でもよくパスタとかピザ食べているじゃん」

 私は、そうだねぇと言いつつも、それとはまた違うのだと心の中で思う。


 イタリア料理の店に行きたいのだ。

 家ではなくお店でイタリア料理を食べたいのである。


 きっと夫もそうだ。

 だって、今年は結婚20周年。

 イタリアンは、私たちにとって思い出の料理である。


 学生時代から付き合っていた私と夫は、10年ほど付き合ってから結婚した。好きなように2人で自由にしていたら、気づけば10年が経っていたのだ。お互いに自由にしていたものだから、どうしたってお金がなく、2人でデートをするときには大体は安い定食屋さんか牛丼屋さん、私がお弁当を作って公園で食べるなどしていた。


 でも、その日は違うのだった。

 20年前のその日、いつものように夫と駅前で待ち合わせをして落ち合った。

「お店、予約しているから」

 それだけ言うと下を向いて歩き始めてしまったのだ。

 そんなに寡黙な人ではないのに店までの道中、ほとんど無言だったのを覚えている。

 ここだよと、ようやく足を止めた先には最近出来たと聞いていたイタリア料理のお店があった。立派な店の外観から、私は恥ずかしいがお金の心配をした。

「大丈夫だから、ついてきて」

 このときの夫の頼もしい顔は今でも私の好きな表情の一つである。

 そうして言われるまま席に通され、ほどなく料理が運ばれる。パスタやピザ以外のイタリアンは初めてであり、コース料理の食べ方にドキドキしながら、夫を見ると凛としているのだ。やっぱり頼もしいとここで2度目にときめいたのは内緒。

 コースはすすみ、メインの後にお野菜が出るのかと驚いたり、噂のイタリアンジェラートだと内心興奮したりと、なかなか感情が忙しい食事ではあるが、それさえ楽しかった。

 そうして一通りを食べ終えると、彼が言う。

「初めてのイタリアンのコースだったね」

「うん、緊張したけど美味しかったよ」

 私が笑うと、どこか彼も安心したように見えた。

 そして、小さな丸い箱を取り出した。

「これからのいろんな初めてを君とたくさん経験したいんだ。僕と一緒にずっといてください」

 箱を開くと指輪があり、それはプロポーズだった。

 私はもちろん受け入れ、その一部始終をお店の人が見ていてくれたらしく、もう一種のデザートを持ってきてくれたのだ。

『Tanti auguri !!!』

 小さなケーキの下のプレートにチョコレートで書かれていた祝いの言葉。たくさんのおめでとうをもらったのだ。


 その素敵な日からまもなく20年が経つ。

    初めてづくしだったこの20年、その結婚20周年記念は、夫と二人あのイタリアンで祝いたいのだ。

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【今日の記念日】

9月17日 イタリア料理の日

イタリア料理の普及・発展、イタリア文化の紹介、調理技術・知識向上を目的に、イタリア料理のシェフを中心に活動を行なっている日本イタリア料理協会が制定。日付はイタリア語で「料理」を意味する「クチーナ」(CUCINA)を917と読む語呂合わせから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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