12月11日ロールちゃんの日
目つきが鋭く、額に傷があり、それが見えるほどの短髪。身長は190cm近く、恰幅が良い。今の世の中、マスクが手放せないからこの見た目にマスクをしていると結構怖がられる。
でも、彼はとても優しい。
「あ、危ない」
子供が道路に飛び出す直前、彼は飛び込んで子供を引っ張り戻す。急ブレーキとともに車がそれを避け、間一髪助かった。良かったと涙を流す彼に、慌てて駆け寄る子供の母が、お礼を繰り返しつつもほんの少し距離を見ていたことに彼は気づかない。
「良かった、良かった」
子供を母親に戻し、彼は涙を拭ってその場を去った。
「あら、これは?」
やや放心状態だった母親が我に返るころには彼の姿はすでになく、そのあとにはピンク色のうさぎ柄エコバッグ。
彼はすっかり忘れて帰ってきてしまった。
「俺のロールちゃん……」
エコバッグには買ったばかりのお気に入りのスイーツが入っていた。スーパーに売っているうさぎの長い耳が特徴的なパッケージのロールケーキである。ロールちゃんは彼があだ名をつけたわけではなく、商品名である。
『ロールちゃん』
毎月お給料日の翌日、ホイップクリームとチョコクリームの2本のロールちゃんを買うことが彼の楽しみであった。そして今日がその日でスーパーからの帰り道だったのだ。ぐすんと涙を拭うのに夢中でバッグを忘れた。しばらく悩み、もう一度買いに出ることに決めた。
自分がロールちゃんを好きになったのもうさぎの耳付き帽子がきっかけだったと思い出す。
小学校の学芸会で初めて立候補した『森のうさぎ役』。今までは熊や怪獣、更には鬼役とどちらかと言うと怖がられる役が多かったので、今回こそはと自分の好きな役に手を上げて立候補をしたのだ。見事役を貰うことができ、母はそれに喜び、愛情込めて役で使ううさぎの耳付き帽子を作ってくれた。
学芸会は大成功を収め、帰路の途中のスーパーで出会ったのがロールちゃんだった。以来、時々食べたくなり、今では定期的なご褒美になっている。
だから、1ヶ月頑張った自分へのご褒美をみすみす無くすわけにはいかないのだ。どこか急ぎ足になりながらスーパーに向かった。さっき子供を助けた交差点、ここを渡ればスーパーに着く。
「あ!お兄さんだ」
元気な男の子の声がして、交差点の手前を振り返るとその助けた子供である。今度は母親としっかり手を握っているようで、自然と顔が綻んだ。親子は彼に近づいてくる。
「さっきはありがとう」
そう言って男の子が彼に手渡したのはうさぎ柄のエコバッグ。彼は驚いて中を見ると、ロールちゃんが3本。ホイップクリーム、チョコクリーム、それと。
「限定味だよ!」
得意げに男の子が言って笑う。母親も同じように微笑み、丁寧に頭を下げた。
「さっきは本当にありがとうございました。また会えて良かったです。息子もロールちゃんが好きなの。もしよかったら食べてください」
彼は遠慮したが、最後にはありがとうと受け取ることにした。まだ食べたことのない期間限定の味。会えて良かったと言ってくれた喜びとともに、今日はいつもよりも盛大なご褒美になりそうだと、彼は大きな体でスキップをした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【今日の記念日】
12月11日 ロールちゃんの日
しっとりとしたスポンジ生地と美味しいクリーム。そして、ボリューム感で人気のハンディタイプのロールケーキ「ロールちゃん」。その見た目のかわいらしさと美味しさをより多くの人に知ってもらおうと「ロールちゃん」を製造販売する山崎製パン株式会社が制定。日付はパッケージに描かれているキャラクター「ロールちゃん」の長い両耳が数字の11に似ていることから毎月11日としたもの。 ■「ロールちゃん」のパッケージには「日本記念日協会認定」の文字が印刷されている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。