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3月2日ミニーマウスの日
自分がこんなにひどい奴だとは思わなかった。
立花里香は布団の中で丸まって、そう思った。大好きなミニーちゃんのぬいぐるみは涙で濡れてる。まもなく時刻は13時であり、約束の時間だ。けれど里香はその約束をすでにキャンセルしていた。
2件とも。
予定が重なっていることに気づいたのは昨日の夜だった。
3月2日である今日は学校が午前中で終わるため、この日におひな様のケーキを作ろうという約束を親友の佳奈としていた。随分と前に交わした約束だったせいか、うっかり抜け落ちてしまったらしい。忘れたまま、昨日の昼間、別のクラスメイトである綾瀬さんと図書館で勉強をする約束をしていまったのだった。
親友である佳奈との約束の方が先約であり、優先させるべきだとも思ったが、昨日交わした約束を今日なしにするのもどうにも心苦しく、またその一方の約束の反故が人を選んでいるように思えてしまい、決断が出来ないでいた。きっとこのまま佳奈との約束を選んでも、綾瀬さんのことが気になって楽しむことなどできない。そう思い、さっき教室で二つの予定をキャンセルしたのだった。どちらにも体調が悪いと伝えた。
そもそも、私はなんとひどい人間なのだろう。小学校5年生にもなって友達との約束も守れないなんて。 そう思うほど辛く、ただ涙が溢れるだけだった。
すると、ピンポンと呼び鈴がなる。聞き耳を立てていると、応対した母の声に混じり、聞き覚えのある声。
「里香、佳奈ちゃんと綾瀬さんが来てるよ」
里香はバッと布団から出た。
佳奈と綾瀬さん、なぜ二人がここに。頭の中が混乱しつつも、ミニーちゃんを抱きしめる。
「里香ちゃん、大丈夫?」
綾瀬さんの声が聞こえ、既に部屋の前にいるのだと分かる。
「体調、大丈夫なんでしょ?どうせ二人と約束しちゃってどうしようってミニーちゃん抱きしめながら泣いてるんでしょ」
なぜ知っているの?里香は驚き立ち上がる。
「里香ちゃんの様子が変だから佳奈ちゃんに相談したのよ」
綾瀬さんが説明する。私は恥ずかしくて体が熱い。どうしよう、怒らせてしまったのだろうか。やっぱり私は人気者のミニーちゃんにはなれない。
「約束、重なっちゃったんでしょ?それを気にしてどっちもやめたのね」
「だって」
思わず声に出る。けれど、だっての先が続かない。
「そんなの気にしなくていいのに」
佳奈が言い、開けるねと言って扉が開いた。
「だって、私ひどいことを」
私はミニーちゃんを抱きしめながら口にする。
「わざとじゃないことくらい分かるわよ。それに、里香の好きなミニーちゃんはきっと、だったら皆で遊びましょうって言うと思うよ」
顔を上げると佳奈と綾瀬さんが笑っていた。私は涙を堪えて謝る。
「二人とも、ごめんなさい」
「ミニーちゃんに憧れてるんだから、くよくよしないで、ポジティブにだよ」
佳奈が言い、私は頷く。そうだ、私はミニーちゃんになりたいのだ。ポジティブに明るく、自信を持って。
「二人ともごめんね、一緒に遊んでもいいかな」
私がそう言うと、二人も笑ってくれた。
「もちろん!」
私はミニーちゃんをもう一度抱きしめる。私にもデイジーのような友達がいるのだと胸が熱くなる。
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【今日の記念日】
3月2日 ミニーマウスの日
オシャレで女の子らしく、楽しいことが大好きなミニーマウスの魅力を伝え、ミニーマウスとデイジーダックのように仲良しの女ともだち同士が素敵な時間を過ごすことを応援する目的で、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社が制定。日付は3と2で「ミニー」と読む語呂合わせと、女の子がオシャレを楽しみ輝く早春であり、女の子の節句「ひな祭り」と同じ時期などから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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