1月3日くるみパンの日
「おせちもおいしかったし、お雑煮もよかったけれど、やっぱりパンもおいしいわね」
お母さんが嬉しそうにそう言ってパンを口にした。パンは柔らかくてふわふわしているはずなのに、時々カリッとコリッとか音がするので、私はつい見てしまう。
「なぁに、雪」
「ううん、何の音かと思って」
雪は私の名前。生まれた日に『キロクテキ』な大雪が降ったらしく、窓からはらはらキラキラと降るその雪を見て名前を決めたらしい。私はもっとお花とかハートとかピンクとか可愛らしい名前だったらなと思ったりする。同じ2年3組のお友達にキララちゃんがいるけれど、そんな風にかわいいきらきらした名前もいいな。お母さんに言ったことはないけれど。
また、お母さんの口元からカリッと鳴った。私は思わずそれを見る。
「ああ、この音?クルミを噛んだ音だよ」
「くるみ?」
お母さんは自分が食べていたパンのかじっていない方を手でちぎり、断面を見せてくれた。本当だ、茶色いような黒いような大きめの粒が見える。でもやっぱりふわふわしていて柔らかそうだ。
「お母さん、いつもこのパン食べるよね」
パン屋さんに行くとお母さんはいつもこのパンを買う。変わった形のくるみの入ったパン。
このパン屋さんは大きいお店だからいろんな種類のパンが売っている。ハートのチョコレートパンもあるし、星のクリームパン、くまさんのパンもある。ついでに今年の干支である牛さんのミルクパンもあるのだ。私のパンはかわいいウサギのイチゴクリームのパン。
「これが好きなのよ」
どうやら明日食べるくるみパンも買ったらしい。嬉しそうに笑って言った。
「見てもいい?」
私はお母さんに言い、返事を聞く前に買った袋を開けてくるみパンを取り出した。透明の袋の中に入っているくるみパンはやっぱり別にかわいくはない。
「かわいいのにしたらいいのに」
私が言うとお母さんは少し驚いた顔をしてすぐに笑った。
「私にとってはこれが一番かわいいのよ」
貸してみて、と言い私はそれを手渡した。
「見て。何かの形に見えない?」
そう言われてじぃっと見てみるけれど、よく分からない。丸いパンの端が5つに割れている。5つのその切れ込みを見ていると、うっすらと思い出す。
「あっ!この間公園で見つけたオキザリスだ!」
よく見れば5つに割れている部分を花びらだと思うと確かにお花の形に見えるかもしれない。
「うんうん、そうね。オキザリスにも見える。かわいいね」
オキザリスにも、ってことは別のもの?うーん、と考えているとお母さんが答えてしまった。
「雪の結晶に見えるのよ」
「雪?」
ほら、とパンを見て説明してもらったけれど、やっぱりいまいちピントこない。けれどお母さんは嬉しそうにして言うのだ。
「これ、雪のパンなの。だから私には1番かわいいし、1番好きなのよ」
お母さんは、ふふふと笑って最後の1口を食べた。
そんな風に言われ、急にくるみパンがかわいく思えた。雪に見えるかわからないけれど。
私は『雪』で良かったと思い、照れたまま明日の分のくるみパンをちぎって食べた。すぐに口の中でカリコリ鳴り、なんだか楽しくなってきた。
明日のパンを食べちゃったから、お母さんは少し怒ったようだけど、すぐにまた、ふふふと笑った。
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【今日の記念日】
1月3日 くるみパンの日
日本におけるアメリカのカリフォルニア産のくるみの最大の用途が製パンであることから、定期的に「くるみパン」に親しんでもらおうと、カリフォルニアくるみ協会が毎月3日に制定。日付は「毎月来る3日」を「毎月来るみっ日(か)」と読み「くるみ」にかけて「くるみパンの日」としたもの。くるみはビタミンやミネラルなど健康に過ごすための栄養成分を多く含む食材として知られる。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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