12月24日ブルボン・プチの日
「今日は何にしますか?」
後輩の斉藤ユウヤが言う。私は少し考えて、ノートに答えを書き出した。
『うま塩プレッツェル』
『チョコラングドシャ』
私が書き終えると、彼は小さく小さくガッツポーズのような拳を握った。
「俺、このラングドシャ好きなんですよ」
くしゃりと笑い、その拳を少し揺らして見せる。一緒だと思い、私も笑った。
お菓子研究会に所属しているのは、私と彼の他に6人いる。それぞれ今は2人1組になって活動する。主な活動は、その名のとおりお菓子の研究。但し、そのお菓子は市販のものであること。とくにスーパーやコンビニで買えるものに限定している。そうして各組がそれぞれいくつかのお菓子を選び、研究し、2月に発表する。
私と斉藤ユウヤはブルボンプチシリーズを研究発表することにしている。プチはその種類が様々あり、甘いものからしょっぱいものまで好みが広がるセレクトである。その上、コンビニでもスーパーでも、手軽に購入できることから私達はこれに決めたのだ。ちなみに、私の祖母が入院する病院の小さな売店にも数種類販売されていることには実際驚いた。でも、それだけ多くの人に知られているだと実感して、チョイスに間違いは無かったと鼻息を荒くしている今日この頃である。
発表まで残り2ヶ月。研究も大詰めである。
「でもすごいですよね、これだけ頻繁にプチシリーズを食べているのに全く飽きないと言う」
そう言って彼はチョコラングドシャのパッケージを子細に記録している。開ける前に観察をすることが基本なのだ。
一方の私もプレッツェルを観察する。じぃっとパッケージを見ながら彼に答えた。
「そうだねぇ。プチって言っても食べている種類は様々だから飽きないんだね、きっと」
私がそう言って、手早くプチのイラストを描いていると彼がまた笑って言った。
「先輩は研究じゃなくても食べていますもんね」
彼はいたずらに笑うが、私は驚いていた。
「な、何で知っているの?」
シャーペンでするすると描いていた手を止めて固まる。
「いつだったか、外のベンチでプチを食べているの見ましたもん」
言いませんでしたっけ。とぼけた顔を見せ、彼は続けた。
「あと、話をするときは顔を見るんですよ、先輩」
言われたまま、彼の顔を見た。その目や頬はすぐにくしゃりと崩れる。
「その時の先輩が、1人黙々とプチ1本まるまる食べていたので覚えているんです。チョコラングドシャだったんですよね、食べていたの」
言われてみればそんな日もあった、と言うか良くある。そしてそれを見られていたのか。
「それを何度か見たものだから、もう好きになっちゃって」
好き、なんて単語が出たものだから、私は急に慌てる。慌てて慌てて、彼の研究対象であるチョコラングドシャを取って開け、1枚口に入れた。
「あ、やっぱり!先輩も好きなんですね、チョコラングドシャ。良く食べてたもんなぁ」
もう1枚、と手を伸ばした先で彼の指先に触れた。
あぁ、そっちね。
私はプレッツェルも開けて1つ食べ、甘さをしょっぱさで打ち消してみる。
「僕も好きなんですよ、これ」
ほんの少し、甘さが勝っていた。
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【今日の記念日】
12月24日 ブルボン・プチの日
新潟県柏崎市に本社を置き、数多くの人気菓子を製造販売する株式会社ブルボンが制定。同社が1996年から販売する「プチシリーズ」は手軽に食べられる大きさのビスケットや米菓、スナック類など24種類。そのバラエティ豊かな品揃えと、色とりどりの細長いパッケージで人気の「プチシリーズ」をさらに多くの人に楽しんでもらうのが目的。日付は24種類にちなんで毎月24日に。同社は「ブルボン・プチの日」の愛称を「プチの日」としている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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