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11月20日多肉植物の日
「プレリンゼ」
夫との出会いの第一声はこれだった。場所は私がアルバイトしていた雑貨屋。
その日私は、バイト出勤前に通りがかった花屋さんで、多肉植物を見かけた。どうにも引き寄せられるように店に入り、そのまま気に入って買ってしまったのだ。帰宅するまでレジの横に置いていて、たまたま買い物に来た今の夫がそれを見つけて、思わず口にした。プレリンゼはその多肉植物の名前で、彼の大切な同居人だったようだ。
それがご縁で、少しずつ距離が縮まり、付き合い始めから3年目に結婚した。私は25歳、夫は30歳だった。
私は私のプレリンゼを、夫は夫のプレリンゼを、それまでと同じように愛情を持って育てている。それは今もそう。おかげでその季節になると黄色の可愛らしい花を咲かせてくれるので、それはまるで幸せを育てているようだ。
夫はどうだろう。私がそう思うのと同じ程、幸せに思ってくれているだろうか。あまり口数が多くない彼なので、私は時々不安にもなる。そんなときには、彼のプレリンゼに話しかけていたりする。
恥ずかしいからそんなことは夫に言えないけれど。
「植物もさ、生きものだから話し掛けると反応するんだよ。いい言葉を話しかければ生き生きとするし、悪い言葉を話しかければ萎れてしまうかも。大事にすれば元気に育つし、寂しければ元気はなくなるかな」
夫の帰りを待ちながら、テレビを見ているとイケメン花屋さんがそんなことを言っていた。
「人と一緒ですね」
さらりとリポーターがまとめてコーナーは終わったが、そこに映っていた花たちは確かにとてもいきいきと輝いていた。ならば、と、いつものように私もまた話し掛ける。
「耀司くん、そろそろ帰ってくるかな。5日ぶりだね」
夫は仕事の都合で日曜日から出張に出ていた。やっぱり少し寂しかったが、それもあと僅か。もう少しで帰宅するだろうと何となく私と彼のプレリンゼを見ていると、違いに気づく。私の方が少し元気が無さそうである。葉の先がどことなく下を向いているように見える。
なぜ、私のだけ。
病気か何かだろうか。
「ただいま」
鍵のあく音にも気付かず、いつの間にか夫が帰宅した。私は慌てて玄関に向かい、彼を迎える。
「あれ、何かあったの?」
彼は私の表情を見て問いかける。せっかく帰ってきたのに、笑顔になれないのが悲しい。
「私のプレリンゼだけ、何だか元気がないの」
今気づいてしまったものだから、夫の帰宅早々にも関わらず私は口にした。彼はどれどれと言いながら、それを見る。すぐに何かを理解したようで、私の顔を見て微笑む。
「多分、最近は出張中で僕が話しかけていないからかな」
「え」
夫の思いがけない答えに私はただ驚く。
「いつも君のプレリンゼに話し掛けているんだよね、実は。それが5日も空いてしまったから、寂しかったのかもしれない」
きみと一緒で、とまた笑う。
私は彼の、彼は私のプレリンゼに話し掛けていたのだ。なんだか同じで嬉しい。
彼は私に言ったのと同じようにプレリンゼにただいまと言った。私も笑って答える。
「おかえり」
声をかけることは人にも植物にも、最大の薬である。
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【今日の記念日】
11月20日 多肉植物の日
岐阜県瑞穂市に本社を置き、サボテンや観葉植物、多肉植物の生産加工販売などを行う株式会社岐孝園が制定。多肉植物の個性やその魅力をより多くの人に知ってもらうのが目的。日付は、同社が運営する「さぼてん村」のある岐阜県瑞穂市で多肉植物が美しくきれいに変身するのが霜が降り始める11月20日頃なので。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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