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12月18日ナボナの日

 ふわふわのレインボー綿あめを食べながらふと思う。これくらい軽い触感だったらおばあちゃんも食べられるかな。でも、とすぐに思い直した。こんな大きな虹色の綿あめを手に持って、髪の毛に絡みそうになるのを苦慮しながら食べるおばあちゃんを想像すると、ちょっと可愛いけれど大変そう。

 最近はおばあちゃん自身出かけることもあまりしなくなったし、私も受験期で頻繁には会いに行けない。お互いに今流行の風邪をもらってきたら大変だから、なおのこと。写真やテレビ電話のように顔を見せながら話はするけれど、やっぱり少しその表情は寂しそうな気がする。おじいちゃんが亡くなってもう随分経つけれど、孫の私や娘である母に会うことも少なくなって、いよいよ一人の時間が長くなっている。

「また、あんみつ食べに行きたいね」

 前回電話したとき、そう言った私におばあちゃんは少し困ったように笑った。

「そうね、でももうあんみつも全部は食べられなくなってきたなぁ。やっぱり年を取ると甘いものとかお腹に入らなくなっちゃうのかねぇ」

 そう言ってスマホの画面越しにお腹をさすって見せた。

 きゅぅっと胸が痛んだ。

 年を取ると言うことは、その年月分の人生を生きてきた証だから、悲しむことでは全くないし、むしろ誇らしいことである。でもその反面、その年月が長いほどに体の機能や体力が衰えてしまう。仕方のないことだけれど、だんだんおばあちゃんが小さくなっていくように思えて、私は切なくなるのだった。


 出掛けることも直接顔を合わせることも出来ないのなら、せめて自宅でのティータイムくらい楽しんでもらいたい。そう思ってスイーツめぐりに出てみたのだが、これがなかなか難しい。

 あんみつを一皿完食出来そうにないと言うので、量も中身もボリュームを抑えなくてはならない。そもそもあんみつの半人前にすればいいものだが、せっかくだからこれまでプレゼントしていないお菓子を贈りたい。丁度クリスマスも近いから可愛らしいケーキのような洋菓子もいいかも。けれどおばあちゃんは洋菓子よりと和菓子派である。そしてその孫の私も。そうなるとやっぱり和菓子屋さんに入ってしまう。 

「あ、これ」

「こちらはフワッと軽いソフトカステラ生地で優しい甘さのクリームを挟んだロングセラーのお菓子です」

 店員さんが穏やかな声で説明してくれる。名前は聞いたことがある。もしかしたら小さな頃に食べたかもしれないけれど、正直覚えていない。でも、久々に見たその見た目が可愛く、気になってしまった。

「和菓子の好きな祖母に贈りたいのですが」

「和菓子好きの方にも、普段と少し変わってお楽しみいただけると思いますよ」

 私はふわりと軽いその生地と同じような優しい笑顔の店員さんにお礼を伝え、ナボナを買った。さっき、このお菓子ができた年を聞くと、祖母はその時14歳。今の私と同じ年。私と祖母が同い年の気持ちでこれを食べれば、テレビ電話越しでも、いつもよりずっと楽しいティータイムになるはずだ。

 私はまるでナボナのその生地のように足取り軽く帰路を行く。

 ナボナでテレビ女子会を開くのだ。
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【今日の記念日】
12月18日 ナボナの日

「ナボナはお菓子のホームラン王です」のCMで知られるナボナなどの和菓子の製造販売を手がけ、東京・自由が丘に本社を置く株式会社亀屋万年堂が制定。同社は1938年(昭和13年)12月18日に創業したことから、この日を看板商品である「ナボナの日」としたもの。ナボナは2018年で発売55周年。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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