1月31日チューリップを贈る日
気持ちいい天気だと、電車を待つ時間さえ穏やかな気分だ。転職してから半年、ようやく職場に行く緊張感が落ち着いてきた気がする。
ホームの外を眺める。心なしか街行く人々もどこか明るい表情に見えるから不思議だ。保育園の散歩だろうか、カラー帽子を被った小さな子供たちが2人1組で手をつなぎ、先生らしき女性のあとをひょこひょこ付いて歩いている。可愛らしいなぁ。
その中の1組が立ち止まる。それは男の子のようで、急に手を離された女の子は僅かに戸惑っているようだ。男の子は後ろを向くとその場にしゃがみ、なにか手元をもぞもぞとさせ、すっくと立ちあがると女の子にそれを差し出した。目を細めてよく見ると、どうやらピンクの花のようである。周りの植え込みをみるとサツキだかツツジだか、よく見る白やピンクの花がある。しゃがんだのでおそらく落ちていた花を女の子にあげたのだろう。
落ちていた花なんて、女の子はいやがるのではないか。
そう思って見ていると、受け取った女の子は満面の笑みである。彼女の満面の表情を受けた彼もまた、気持ちの良い笑顔を見せて何かを伝えていた。それはプレゼントだよ、かも知れないしどうぞ、かも知れない。
もしくは、結婚しようね、かも知れないのだった。
そういえば私も妻に初めてプロポーズをしたのは彼のように小学生に満たない年頃だったな。幼稚園の卒園式で今の妻である彼女とは小学校で別れてしまうのだとようやく実感した私は妙に焦っていた。そして、卒園おめでとうともらった一輪のチューリップを別れる最後の瞬間に彼女に渡したのだ。
「僕と結婚してください」
彼女は嬉しそうに笑ってうん、と頷いてくれた。それはやっぱり今見た女の子のように満面の笑みだった。
まあ、私は彼女のその反応で安心してその後は中学生になるまでほとんど彼女と会うことはしなかったのだけれど(外出先でたまたま遭遇は何度かあった)。それでも中学でちゃんと再会して、彼女は私の6歳の時のプロポーズを覚えていてくれて、そのまま結婚に進めたのは本当に奇跡なのではないかと思う。それもこれもきっと彼女が頑張ってくれたことによる奇跡なのだろう。
結婚してすぐに転勤、まもなくして出産。知り合いもいないところによく付いてきてくれた。娘が生まれて2年した頃には私は転職して、きっと彼女は随分と不安だったのではないか。そんなこと、全く顔にも態度にも出してはいないけれど、それでもきっといろんなことを我慢して私や娘の生活を守ってくれていたはずだ。そして今、彼女のお腹には2人目がいる。きっと今も不安や何かを抱えているかも知れないが、やっぱり私には教えてくれない。
だからせめて、私は昔と変わらずに彼女を愛していること、それは6歳の時から変わっていないこと、そしてこれからも変わらないことを伝えておきたくなった。それはたまたま見かけた保育園児の彼のおかげだろう。
電車が近づいてくる。私は急ぎ彼がいた場所を見るが、もう既に彼らはいなかった。
今度は私の番ということか。
今日は愛妻にチューリップを買って帰ろうと決め私は足取り軽く電車に乗った。
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【今日の記念日】
1月31日 チューリップを贈る日
富山県砺波市に事務局を置く砺波切花研究会が制定。砺波市の名産品として知られるチューリップの切花。その花言葉は「思いやり」であり、中でも赤い色のチューリップは「真実の愛」とされることから、この日に大切なパートナー(愛妻)に贈ってほしいとの思いが込められている。日付は数字の1をアルファベットの「I(あい=愛)」に見立て、31を「(さい=妻)」と読むと「愛妻」となることから1月31日としたもの。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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