1月26日モンチッチの日
「え!部長、1974年生まれなんですか?!」
割に高めの声で驚いて見せたのは高坂恵理子である。20も下の部下だ。
高坂はニコニコと笑いながらスマホを取り出した。
「見てくださいよ、部長。これ、可愛いでしょう」
そう言って見せられたのはモウモウと毛で覆われたベビーフェイスの懐かしきぬいぐるみの写真。
「私の大好きなキャラクターなんですよ」
「これは君の世代ではないでしょう」
「そうなんですよね、でも小さい頃に親がこのぬいぐるみを買ってくれて。それが大きくなってもずっと気に入ったまま」
スマホの画面を消してポケットにしまった。
「今に至ります。ちなみに、この子、部長と同い年です」
そう告げると高坂はニコリと笑い、打ち合わせを始めましょうと言った。
モンチッチ、君は47歳だったのか。
私は言ってしまえばモンチッチと同級生なのだと笑えてしまう。そしてその同級生であるモンチッチはこんな若い人にも未だに人気があるのかと、少し羨ましく思う。
管理職にもなると、部下は緊張するようでなかなか気さくに話しかけてくれない。私の部の中では彼女くらいだろう、上司とモンチッチを同い年だと微笑むのは。
彼女のご両親はとても素敵な育て方をされたのだろう。彼女は毎日はつらつとしていて見ているこちらが元気になる。
私の両親は厳しかった。あまりおもちゃなど買ってもらった記憶がない。共働きで忙しかったこともあり、遊んでもらった記憶もちらほらとしか思い出せない。彼女と同じくモンチッチのぬいぐるみでもあれば、小さな頃の自分は慰められたかもしれないな。
久々にこんな気持ちを思い出し、自分でも苦笑いするしかなかった。世界中から、未だに愛され続けるモンチッチにまるで嫉妬をしているようである。
「と、言うことで、社内報に載せる写真はこれで集まりましたが、どうですかね」
高坂がそう言って私を含めた部内の写真を広げてみせた。半年に1度発行される社内報の一部ページを今回は我が部が担当する。部員の今昔物語として赤ちゃんの写真と今の写真を載せるのだが、まぁ随分と年齢に違いがあるものだ。
「こうして並べると面白いね」
「そうですね、部長のこの可愛らしい赤ちゃん時代にモンチッチも産まれたのかと思うと感慨深いです」
そう言って高坂が私の写真を指差した。
「ほらここ、モンチッチのぬいぐるみ」
写真の奥に映る小さな棚の上、モンチッチのぬいぐるみがあった。
「え、あ、本当だ」
私もモンチッチのぬいぐるみを買ってもらっていたのか。そんなところ、全く気づかなかった。
「部長もモンチッチと一緒に愛されて育ったんですねぇ」
茶化すように高坂が言い、私は図らずもその言葉が胸にしみた。
「ほら、作業を始めよう」
私は誤魔化すように言った。
私も愛されていた。もしかしたら47年間ずっと愛されているのかも知れない。頭の片隅に思い出す。写真にある棚は今も実家にあって、そう言えばモンチッチらしきぬいぐるみもあったのだ。私はちゃんと私の世界の中で皆に愛されているのだ。
そう思うと、やっぱり確かにモンチッチと一緒に愛されて育ったのだと笑えた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【今日の記念日】
1月26日 モンチッチの日
「モンチッチ」をはじめとしたぬいぐるみ、人形、オルゴール、雑貨などを企画製造販売する株式会社セキグチが制定。世界中で愛されているマスコットキャラクターの「モンチッチ」の魅力をさらに多くの人に知ってもらうのが目的。日付は「モンチッチ」の誕生日である1974年1月26日から。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?