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5月2日 紙コップの日
そう言えば家には必ず紙コップがあった。
会社のオンライン懇談会で使うからと給湯室で準備をしていた。
「あ、よく見る紙コップだ」
同僚の澤さんが言い、それを手に持って見る。私も何となくつられて手に持った。
「確かに、このオレンジと白のストライプの紙コップってよく見るかも」
「紙コップ、学校でも家でもよく使うから絶対家に置いておくようにしてるわ」
澤さんも私も今年30歳にになる同年齢だ。彼女には2人のお子さんがいて、確か小学生3年生と年長さんだっただろうか。よく楽しそうな写真を見せてくれるので、私も早く子供が欲しいなと思っていた。
「分かる!私も子供の頃、紙コップがいつも家にあった気がする。あ、糸電話とかよくやったなぁ」
「それ、うちの子未だによくやってるよ。私と旦那に隠れてこしょこしょ話するときとか、あとは喧嘩して仲直りするときなんかも」
それを聞き、私はぼんやり考える。
仲直りに糸電話。
「いいかもしれない」
私がぽつりそう言うと、澤さんは「そうか?」とどこか呆れたように言った。
昨日の夜、正確には朝だけど、夫と喧嘩した。
出勤前に、話があるからできれば早めに帰って来て欲しいと彼に伝えたのだ。けれど帰ってきたのは終電の時間だった。
私はもう先に寝ることに決め、布団に潜り込んでそのまま、気づけば眠っていた。
翌朝、どこか悲しい気持ちのまま彼に伝えると、彼も彼で困ったような顔をした。
「しょうがないじゃん、仕事だったんだから」
そりゃそうだ、仕事なんだから仕方がない。
むしろ遅くまでお疲れさまでした、である。
返す言葉もない。
でも、だったら私の『話がある』と言うのは彼のどこに入っていったのだろう。そしてそれは今どこにあるのだろう。
回りくどい言い方をせずとも用件だけを言えばいいのかも知れないけれど、でもそうせずに伝えたかった私の気持ちはどこに向かえばいいのだろう。
喧嘩にもならない喧嘩をして、ただ私が勝手に悲しんで、そのまま私は出社した。
斯くして、紙コップを買って帰る。そう言えば災害時用に買い置きをしてもいいかもしれないと思い、2パック買った。
帰宅後、糸と紙コップをつなぎ、数分もあれば糸電話が作れた。一つを玄関に置いておく。
18時半、玄関の鍵がカチャリとなる。思いがけぬ早い帰宅に慌てて準備する。
「ただいま。なにこれ、糸電話?懐かしい」
カサッと音がして、夫がそれを持ったのが分かった。私は片方の紙コップを口にあて、ピンと糸を伸ばす。
「おかえりなさい、聞こえる?」
「聞こえるよ」
彼が返事をし、少し安心する。軽く深呼吸をして、再び口を開けた。
「昨日はごめんね」
言えた、と思うと同時に反応が気になる。
「俺の方こそ、ごめんね。話、今聞かせてくれる?」
彼がそう言って、見えないのにどこか笑ってくれたように聞こえた。私はゆっくりと閉じていた扉を開けて、彼の顔を確認し、そのまま伝える。
「赤ちゃんが出来たよ」
彼は驚いたようで、糸電話を握りしめたまま私に駆け寄り、抱きしめてくれた。
紙コップで仲直りも出来るとは、万能である。これはやっぱり常に家に置いておこうと決めた。
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【今日の記念日】
5月2日 紙コップの日
紙やプラスチックの素材を使用した包装容器の製造販売などを手がけ、日本の紙コップのリーディングカンパニーである東罐興業株式会社が制定。記念日を通じて紙コップの認知度とイメージの向上が目的。日付は、紙コップを使用する機会が多いゴールデンウィークの期間であることと、5と2で「コ(5)ップ(2)」と読む語呂合わせから。夏に向けて暑くなり始めるこの時期に、水分補給を意識して健康に夏を乗り切って欲しいという思いも込められている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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