8月19日 愛知のいちじくの日
誕生日にと、孫がいちじくを送ってくれた。
生のいちじくなんて、久しく食べていない。いつだったか、スーパーで買ってみたけれど私の好きなそれとは違うので以来買っていない。
実にいつぶりかの美味しそうないちじくである。心踊らないはずがない。
「わぁ」
思わず声も出てしまう。ぷっくりとした赤紫色のそれはなんとも魅惑的なのだ。
「あら、大きくて美味しそうないちじくですね」
ヘルパーさんが台所にやって来て覗き込むようにそれを見た。まだ30代半ばくらいだろうか、彼女はきっと生のいちじくを食べたことは無いのではないか。
「食べてみますか?」
「え、いいんですか?」
目をキラキラとさせて嬉しそうにするので、私も頷き、お茶にしましょうと誘った。
完熟のいちじくはそれはそれはとろりと濃厚でコクのある甘みの幸せの果実であった。孫は良い店のものを取り寄せてくれたようで、私はいちじくの甘みに加えて、孫への感謝で胸がいっぱいだった。
「わぁ、美味しい」
目の前に座るヘルパーさんはやっぱり目をキラキラさせて喜んで食べている。
「いちじくを食べるのは初めてかしら」
「はい、恥ずかしながら食べるのも見るのも初めてなんです。それなのに、さっき見ただけでなんだか美味しそうと思ってしまって」
照れながらもその手に持つフォークは止まっておらず、本当に美味しく食べてくれているのだと私も嬉しくなる。贈ってくれたのは孫なのに、何だか私が誇らしい。
「いちじくは『花が無い果実』って書くのよね」
「そうでしたっけ」
そう言うと彼女はスマートフォンを取り出して何かを打ち込み、すぐに「本当だ」と口にした。
「花が出来ずに実が出来ると思われがちだけれど、本当はこの実の中に花があるのよ」
「え!そうなんですか」
さっきよりも驚いてみせ、彼女はまじまじといちじくの中を見る。赤いつぶつぶの白っぽいところがそれなのだと説明すると、不思議そうにけれど興味深そうに見るので私はやっぱり楽しくなってくる。
80歳も過ぎた老人の日中の世話に、孫とほとんど変わらない歳の女の子が来てくれ、世間話にも付き合ってくれるなんて、そうそういないとても良い子である。
「ありがとうね、とても楽しい誕生日になったわ」
「こちらこそ、ご馳走になっちゃって。ありがとうございます、美味しくてビックリしました。それにしても......」
食べ終えた皿を洗いながらヘルパーさんが言い、自身のスマートフォンを見せてきた。
「お誕生日に不老長寿の果実を贈ってくれるとは。素敵なお孫さんですね」
画面を見るといちじくの説明ページであった。そこにはいちじくの高栄養価から『不老長寿の果実』と呼ばれていることが記されていた。
「私もお孫さんに1票!伝説の果実で不老長寿でいて下さいね」
とても可愛らしい笑顔で言うので、もしかしたら孫はいちじくと共に『一緒に食べる』友人もよこしてくれたのかと思った。どことなく、最近は全然会えない孫の笑顔に似ているようなそうでないような。
今度は孫にも贈ってみようかしら。その次には是非このヘルパーさんにも。
不老長寿でいて欲しい人はこの世にたくさんいるのである。
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【今日の記念日】
8月19日 愛知のいちじくの日
県の特産物であり日本一の出荷量を誇る愛知県産のいちじくを、もっと多くの人にアピールして、その美味しさを知ってもらおうとJAあいち経済連が制定。日付は愛知県産のいちじくが数多く出回る7月から10月までの4ヶ月の、「いちじく」の語呂合わせからそれぞれ19日とした(7月19日・8月19日・9月19日・10月19日)。いちじくは古くから栽培されていた果実で、果糖、ブドウ糖、ビタミン、カリウムなどのさまざまな成分が含まれ、食物繊維も豊富な独特の甘みのある果実。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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