3月27日 オンライン花見の日
ぶわーっと風が吹く。
私は目を細め、その風の行く先を見る。
「っくし!」
急なくしゃみが出て、それを合図に目が痒くなる。目をゴシゴシと擦りながらも負けじと目を開けると、風はちゃんと嬉しいものも運んでくれる。
春、桜が舞い始めていた。
長女の里奈は小学校を卒業し、中学生になる。長男の令は保育園を卒園して小学生だ。月日が流れるのはこんなにも早かっただろうか。例えば里奈と、もう12回も桜を見たのだろうか。そんなに覚えていないのは、日々がくしゃみをする間に過ぎていくからだろうか。
何とも実感が沸かないのである。
日常のように卒園、卒業し、日常のように入学するのだろうか。そう考えると、少し寂しいし可哀想である。目に涙が溜まるのは花粉症のせいだとしても、それをぐいと手の甲で拭き、やっぱり可哀想に思う。
そんなことをポロリと姉に伝えたら、早速その夜にオンラインお祝いを開催してくれることになった。
「カンパーイ!」
「里奈!令!おめでとー!!!!!」
「おっきくなったねー」
そこには姉家族と弟、私の両親がいた。今日の午前中に話して、夜には集まれるのか。さすが、オンラインである。
「ありがとう!嬉しいです」
「ありがとうございます!」
どこか恥ずかしそうに里奈がお礼を言い、令は胸を張っている。
「あ、見てみて」
照れ隠しなのか、里奈は早速カメラから離れた。そしてすぐにその手に満開の桜を持って現れた。
「オンラインお花見!やってみたかったの!」
里奈が言うと、画面にいる父の手にも綺麗なピンクの桜があった。
「おじいちゃんもあるよー」
すると今度は、弟が一人、おちょこと桜を持ってきて、更には満開の桜画像を画面共有してくれた。
「リアルとバーチャルってのも面白いよね。ドローンで上から見る桜ってものあるみたい」
「おお!満開の桜の中にいるみたい」
「すごいね!みんな桜を用意してたの?!」
姉が驚きながらもその手の桜を画面に映した。結局、どの家も桜を準備しており、急遽オンライン花見も開催された。
わいわいきゃーきゃーと楽しそうな声と画面に映るたくさんの桜が春を見せてくれた。
「去年も今年もなかなか集まれないし、お花見に出かけるのも難しいしね。お祝いに桜を見ながらって言うのも記念になるかなと思って」
姉が言い、私も頷いた。
オンラインで良かったかもしれない。
それぞれが別々の地で暮らしているために、こうして両親や兄弟と会おうとすると、夏や正月の休みくらいでしか計画できない。そうだ、計画しないと会えない。
けれど今回のようにオンラインお祝いやオンライン花見であれば今日の今日でも出来る。そして、こんなふうに、家族総出で我が家の子どもたちの門出を祝ってくれたりするのである。
オンラインは、遠くて近い。
「なかなか会えないけど会えてよかった!ありがとう、みんな」
里奈が嬉しそうに笑い、私も夫もつられて笑う。令はテンションが上がっているのか後方で変な踊りを踊っている。
風もなく、満開の桜が目の前にある。
私は、画面の桜と祝ってくれているみんなの顔を見て、彼らの春をようやく実感するのだった。
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【今日の記念日】
3月27日 オンライン花見の日
ドローンレースやイベントの企画、ドローンを活用した企画・撮影・編集などを行う株式会社ドローンエンターテインメントが制定。日本を代表する花の「桜」を愛でるお花見は大切な日本文化のひとつだが、新型コロナウィルス感染拡大の影響でお花見をすることが難しくなっている。そこでオンライン上で桜の映像を通してのお花見「オンライン花見」をすることで、お花見文化を守り、世界中の人にも親しんでもらうのが目的。日付は「さくらの日」とされる3月27日。同社ではドローンで撮影した全国の桜の映像のブルーレイ・ディスクを販売している。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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