4月27日 タッパーの日
柔らかな蓋を開けると、結構パンパンに入っていた。
「食べるでしょう?タッパーに詰めておくわね」
実家に行くと、帰り際にはいつもタッパーに詰めたそれを持たせてくれる。大半は煮物で、いつでもタッパーにいっぱい入れてくれるのだ。
中でも数多くあるのが、私の好物である白菜と豚肉、こんにゃくと厚揚げを重ねた煮物である。酒と醤油とだしだけで味を付けたそれは私の中の母の味である。今日もその煮物をタッパーに詰めてくれると言う。
白菜の煮物。簡単な味付けなのに、なかなか母が作るような味にはならないのはなんとも不思議である。上手く味がしみないのだ。
「そりゃあ私は何十年と作っているからね」
そのとおりである。母は快活に笑う。
昔、誕生日になるとその日の夕飯に何を食べたいかと聞かれた。小さな頃こそハンバーグやスパゲティなんて言っていたが、中学生くらいになると私は白菜の煮物をリクエストすることが殆どだった。弟や妹はステーキやお寿司と言ったハレノヒご飯をリクエストするが、私は母の煮物が好きだったのだ。
「醤油と、酒とだしだけでしょ?」
「そうよ。それで煮るだけ。簡単だし安上がりだから良く作ったけど、パクパク食べるのはあなたくらいだったわね。ねー、ひなちゃん」
母はそう言って2歳になる娘、日奈子の手に触れる。おばあちゃんがにこりと笑うから、娘もキャッキャと嬉しそうに笑うのだった。
「来月から仕事も始まるのだから、あんまり無理しないで、疲れたら帰ってきなさい。そんなに遠い距離でもないし」
母は日奈子と繋いだ手をゆらゆらと揺らして遊んでいる。
「一応、家庭がありますのでね、そんなに頻繁には来れないわよ」
わざと意地の悪い言い方をして私は舌を出す。
いつでもおいでと言われたら、例えばそれで問題がないのなら、私はずっと家に居たいと思ってしまうかも知れない。仕事をして、家事をして、育児をすることが、今の私にきちんとできるだろうかと不安しかないのだ。
「いつ来てもいいよ。それか、タッパーに詰めた夕飯くらい持って帰ればいいわよ」
一回でもご飯作りが無くなると楽でしょう?母が母の顔で笑う。ああ、母も大変だったのだとじわり感じた。
少しして、夕方の風が吹く頃、私と娘は実家を後にした。小さな手を繋ぎ、おばあちゃんと会えて良かったねと言うと、日奈子も同じように「ねーっ」と笑った。
可愛いなぁ。
そう思ってすぐ後に、夕飯はタッパーに詰めてもらった煮物があるから楽だなぁと思う。それに魚でも足せば十分だろう。早めにお風呂に入って、早めに夕飯を食べてもう寝てしまおう。また明日から何かと頑張るから、今日はもう心穏やかなまま終わりたい。
そう決めて、帰宅後すぐにお風呂に入り、夕飯の準備をした。
「あ」
煮物のタッパーには溢れんばかりの白菜の煮物があった。パンパンに入っている。そのまま鍋に移すと、やっぱり結構な量である。魚など足さずともこれと味噌汁ご飯で十分だ。
母は、きっと私が実家に寄ると聞き、たくさん作ってくれたのだろう。そうでなければ、父と2人でこの量は食べ切れないはずだ。
私はほろ温く残るタッパーの温かさに母を見た。
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【今日の記念日】
4月27日 タッパーの日
日本タッパーウェア株式会社が制定。プラスチック製密封容器の代名詞として広く親しまれている「タッパー」「タッパーウェア」。その登録商標を持つ同社がそのことを消費者にもっと理解してもらい、さらなる普及を目指すのが目的。日付は1963年4月27日に同社が設立されたことから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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