8月18日 約束の日
『約束』には諦めも終わりもないのだと知ったのは、彼が亡くなって2年が過ぎた今日だった。
彼は私の上司だった。
それも今からすれば10年も前のこと。私はまだ入社したばかりで彼と直接仕事を一緒にしたこともなければ、業務を教わったこともないのである。それに仕事の上司であったのはわずかそこから2年もなかっただろうか。
けれど彼とのつき合いはその後もずっと続いていた。
正しくは先輩を含めた『彼ら』とのつき合いと言えるのだが、それを含めてもう10年のつき合いである。きっかけは同じ部の先輩が彼、当時の部長と飲みに行くからあなたも是非と誘ってくれたことだった。お酒を飲みながらいろんな話をする。私の言うことに対して、それで良いとかそこは違うとか的確に教えてくれ、かつ彼なりのアドバイスをくれることが多かったのだ。だから私も彼に多くを質問してはいろんなことを聞き、知った。
気づけば、彼は私の道しるべのような存在になった。
そしてしばらくして彼は定年退職で会社を去った。
最後に会ったのは亡くなる1年前、つまり今からすると3年前。日付は今日だった。
確かに随分と痩せていたことを覚えている。どこか不安にもなったので聞いてみたが、彼は快活に笑って答えてくれた。
「最近テニス始めたんですよ」
にこにこと嬉しそうにそう言ったので、私もそれは良かったと微笑んだ。彼が幸せに毎日を過ごしているのを聞いて私も喜んだのだ。
そのころ、私は随分と悩んでいた。業務と職種が変わったことで仕事に対する自分の将来像が見えないこと、仕事のためにしなくてはならない勉強、けれど育児中である自分にはなかなかそれが手につかない。
そしてなにより、私には将来の夢があった。
この両手から溢れ落ちるほどの希望たちをどのようにこなせば良いのかと悩み、私は彼に相談した。
「あなたはね、オールマイティではないと思いますよ。プロフェッショナルの方だと思うんだけどなぁ」
そう言って、1つのことに向き合うよう教えてくれたのだった。
それで私はハッとした。
私の中には『小説家になる』と言う夢だけを置いておけばいいのだ。
あれもこれもできないではなく、この一つがあると言うそれを芯にする。それだけで私の軸はブレないのだ。そう思い、私はその時、彼に約束をしたのである。
「必ず小説家になりますね」
私の最大級の約束であった。
その時から3年がたち、正直この間も紆余曲折があった。夢一本の芯を作ったとしても、仕事でやらなくてはならないことはあるわけだし、時間がない中でも子供のおむつを替えなくてはならない。夢に向けて私なりに努力を続けていたが、箸にも棒にもかからなかった。
でも、約束を諦めることは選択肢になかった。
時間があればとかそんなことは何度も思ったけれど、約束したことを諦めることは決してない。これっぽっちも思ったことはない。
そうして、今日までやってこれたのだ。
「部長、私、小説家になりましたよ」
新人賞を受賞した。その、報告である。
まだまだ道半ばでこれからどうなるかが勝負どころである。
だから、私は彼との約束を守り続ける。
約束を守り続ける限り、きっと彼は近くにいてくれることだろう。応援しますと言ってくれた約束を、彼もまた守り続けてくれると信じている。
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【今日の記念日】
8月18日 約束の日
大阪府大阪市に本社を置き、情報メディアサイト「保険市場」を運営する株式会社アドバンスクリエイトが制定。日付は「保険市場」と芸人の鉄拳とのコラボレートで誕生したパラパラ漫画「約束」が、2013年8月18日に動画サイトYouTubeで配信を開始したことから。パラパラ漫画「約束」は、家族の大切さをストレートに表現し、家族愛、絆から交わされる「約束」を描いた感動的な作品で、Web掲載やテレビ放映などで大きな話題となった。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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