3月14日ホワイト·デー
イベント好きではない彼氏が何やらホワイトデーのプレゼントをくれたから驚いた。
「バレンタインデーはやらない方がいい?」
一応、2月のはじめころに聞いてみた時、彼は少し悩む素振りを見せて答えた。
「どっちでも良いよ」
正直、どっちでも良いが1番困るんだな。そう思ったけれど彼には言わない。どっちでもいいなら私の好きに決めれば良いと考え直して気を楽にした。
で、バレンタインデーは作らないことにしたのだ。よく考えると結構この付き合いも楽である。9月に付き合い始め、ハロウィンもクリスマスもバレンタインデーもスルーして、恋人らしきイベントはしていない。でもそれで十分だった。イベントが関係していなくてもちゃんとデートもするし、旅行にも行った。もちろんケーキやちょっと豪勢なディナーとか予約して出かけることもある。むしろ、仕事が忙しかったりする時にはイベントごとがなくて良かったと思うこともあった。
だから彼との付き合いもしっくりきている。
「バレンタインデー、作って渡せば良かった」
彼からのプレゼントを受け取り、ありがとうといったあとで私は呟くように口にした。口にしたと、言うより、出てしまった。
「いやホワイトデーだからいいんだ」
「なんで?」
手を繋いでいる、その体温がほろ温く心地よい。なんで?と聞いたのは私なのにあまりその答えに興味はないのだった。手のぬくもりや、隣の彼の柔軟剤なのか整髪料なのか、ほのかな香りが鼻をくすぐる。
「ホワイトデーは感謝を伝える日でもあるから、僕は君に感謝したかっただけ」
「えー、じゃあ私もしたい」
感謝なんて山のようにある。バレンタインデーも渡さなかったのだから私もホワイトデーに渡せば良かった。
「じゃあ、君に渡したこのお菓子、僕にもください」
「もちろん」
彼からもらったのは可愛らしいパッケージのマシュマロだった。チョコクリームとコーヒークリームが入っているらしい。私達は近くのカフェでコーヒーを買って公園のベンチに座った。
「ふわふわで美味しいね。クリームも甘さがちょうどいい」
確かにコーヒーととても良く合う。こう、なんだか優しく包まれるような気分だ。
「なんでイベントなのにホワイトデーだけくれたの?」
嬉しそうな顔でマシュマロを食べながらコーヒーを飲み、ふぅと一息つくと答えてくれた。
「ホワイトデーは日本のお菓子会社が作った記念日らしいよ。それを知ったら乗っかってみたくなってさ」
彼がイベントに参加したのも驚いたけれど、ホワイトデーが日本発のものであることにも驚いた。
「イベントごとに乗っかってみるのも楽しいものだね。今まで避けていてごめんね。イベントの特別感が苦手だったんだ」
特別感、なんとなくわかる気がした。
「でもそもそも君といることが特別なんだから、そこにイベントの特別感が加わったとしてもきっと変わらないんだろうなって今回思った。今年はちょっとずつイベントごとも一緒に過ごそう」
私といることが特別なのだとさらりと言う彼が好きなのだと改めて知らされたホワイトデーである。
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【今日の記念日】
3月14日 ホワイト·デー
バレンタインデーのお返しの日として、すっかり日本の年中行事となったこの日を制定したのは福岡市の菓子店「株式会社石村萬盛堂」。1977年(昭和52年)に発案した当時は「君からもらったチョコレートを僕の心(白いマシュマロ)でやさしく包んでお返しするよ」という意味づけから、マシュマロを返すのが正式なルールだったという。株式会社石村萬盛堂は第11号「記念日文化功労賞」を受賞。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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