5月14日 ゴールドデー
キウイ可愛いと言うので、ああ、キウイを食べようと言って歌って踊る2人(2個?)組のやつかと思って聞いていたら、どうやら違った。
彼女のPCを覗くと茶色くてまるっこい、くちばしの細長い鳥がいる。ニュージーランドの国鳥「キウイ」だ。
すると今度は、中は緑色なのだろうかなどと少し怖いことを言うので、僕は席を立ち台所へ向かった。
「緑じゃないけれど」
そう言ってさっき切って冷やしておいたゴールドキウイを渡した。
今日は久々彼女と一緒の休日である。
どこかに行こうと言ったのだが、疲れているからと家でのんびりすることにした。それもそうだろう、彼女はこの4月に入社したばかりの新入社員である(ちなみに僕は同じ会社の2年先輩)。
飲食店に勤める僕らは、土日祝日、GWなどと言うカレンダー通りの休みではないので、こんなふうに平日の休みになることが多い。
流行風邪の蔓延によって自粛が続く世の中とは言え、飲食店のテイクアウトやデリバリー需要は明らかに増えており、つまり、作る料理の量もありがたいことにほとんど変わらずなのである。と、言うことはGWはめちゃくちゃ忙しかったのだ。
「思った以上に売れたよね、ゆりの考案した特別ランチ」
「うん、嬉しかったけど、やっぱりちょっと疲れたかな」
新入社員に課せられた最初の仕事がランチを考えることだった。何にも染まっていない自由な発想が欲しいと言う社長の希望らしいが、結構なプレッシャーもあったと聞く。
けれどその中で彼女の考案した特別ランチは好評だった。それを知って、もっと大喜びをするかと思ったら、とても落ち着いた笑顔でありがとうと言って終わった。
彼女は疲れていたのだろう。
「キウイ、甘いね」
「うん、食べて元気出してよ」
小さな声で伝えると、優しく笑ってくれた。
そして、少し泣いた。
「なんだろう、自分の中で張り詰めていたものが緩んだのかな。仕事が嫌なわけでも悲しいわけでもないのに。ただただ、ぼーっとしていたい」
ハラハラとこぼす涙をそのままに、彼女は泣いた。僕はそれを指で掬い、頭を一つ撫でる。
「疲れているんだよ。今日は何もしないでゆっくり休んで。洗濯も掃除も僕するし、夕飯はテイクアウトしよう」
今日は何もせずにゆっくりしよう。
何もせずただ彼女とぼーっと過ごすのも、とても充実しているではないか。何もしないって意外とそんな日はないからなぁと頭で思いながら、洗濯物を畳み始めた。
「キウイハズバンドだね」
「なにそれ」
僕が聞くと、彼女はスマホの画面を見せてくれた。そこにはまたもや鳥のキウイがいる。
「家事とか育児とか率先して協力してくれる旦那さんを言うそうだよ」
へぇ、と僕はその丸っこい鳥を見ながら返事する。
「キウイ美味しかった。元気出た。これならいつ結婚しても私は幸せになれそうだなと思ったよ」
画像を見ながら彼女がそんなことを言ってようやく笑った。
なんとなく茶色く丸っこいボディになった自分が頭に浮かぶ。尖った細長いくちばしがキュートだからそれもいいか。
照れ隠しで慌てて食べたキウイが甘いので、今日も買いに行こうと密かに思う。
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【今日の記念日】
5月14日 ゴールドデー
ニュージーランド産を中心とするキウイフルーツの輸入などを手がけるゼスプリ インターナショナルジャパン株式会社が制定。新年度、新学期など、ゴールデンルーキーとして入った新人たちに期待とエールを込めて先輩からゴールドキウイフルーツを贈る日。五月病に負けずに甘くてポリフェノールたっぷりのゴールドキウイで元気になって欲しいとの願いが込められている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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