4月8日 出発の日
「しやわせの日です!」
立花みやびは胸を張って答えた。ハッキリと言えたことを誇らしく思って正面を向いている。みやびの答えを聞いた担任は一瞬間をあけるも、すぐに優しく微笑んだ。
「うん、とても素敵な日ですね。4月8日で『し』『8(や)』『わ』『せ』なんだね」
担任が確認をすると、みやびはやはり大きく頷いた。
「それともう一つあります。それは『出発の日』です。『4』と『8』で出発。立花さんの答えと合わせると、今日は1年生の皆さんの『しやわせ出発の日』です」
空は晴れ、雲1つない青空が広がっていた。満足な答えを発表出来たみやびは、与えられた窓際の席から遠く遠くを見ながら薄っすら微笑んでいる。
4月8日、今日はみやびの小学校入学式。
「皆さん、ご入学おめでとうございます!」
担任の言葉につられるように拍手が沸き起こる。
「ちなみに、今日は『しやわせ』の日ですが、正しくは『しあわせ』と言うことも一緒に覚えてくださいね」
みやびを気にしながら担任はそっと訂正をしていたが、みやびはそれに気付かず、今朝の食卓を思い出していた。
「おはよう!」
いつものように母の快活な挨拶で朝は始まった。昨日は少し眠りにつくのが遅くなり、多少の眠気が残っている。今日に控えていた入学式の緊張で、しばらく目が冴えてしまったのだ。
「よく眠れた?」
母の問いには顔を合わせて笑顔で答えておいた。
「パパは今日来られる?」
「今年はね、パパかママのどちらか1人しか見に行けないんだよ。パパはお仕事に行って、みやびの入学式はパソコンで見るからね!」
そう言うと、父はごちそうさまと言って席を立ち、出勤準備を始めた。入れ替わりにみやびが食卓につく。
「じゃーん、ピザトースト」
「わーい!!」
みやびはピザトーストが好きである。好きすぎて一時期には毎日食べるほどであったら、食べすぎを懸念して週に1度か2度にしている。今週は今日が初めてのピザトースト。
「それと、これもどうぞ」
「スープ?」
目の前に出されたスープボウルにはトロリと艶のある赤いスープが入っている。
「ママの好きなトマトのポタージュよ。特別な日に飲むことにしてるの」
みやびが不思議そうに母を見ると、それを察して母は続けた。
「赤って、こう、頑張るぞー!!って気持ちになるの。みやびを産んだ日の朝もこのスープを飲んでいたのよ。これを飲んで、頑張るぞーって思って病院に向かったから、頑張って無事にみやびを産めたんだね、きっと」
当時を思い出すように母もスープを飲んだ。
みやびも同じようにスプーンで掬ってひと口飲む。トロリとして甘いトマトの味。温かなそれが喉をゆっくり通るのがわかった。
確かに、頑張るぞー!と思えるから不思議だ。
「あ、今日って4月8日だ!『しやわせ』の日だね。『しあわせ』に似ているからきっといい日になるよ。さあ、もうちょっとで出発するよ」
母が言い、2口目のスープが喉を通った。
みやびはまだ窓の外を見ていた。
家を出て1時間以上経ったのに、胸やお腹がポカポカと温かい。これはきっと『しやわせ』である。
今日、彼女はしやわせに向かって出発する。
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【今日の記念日】
4月8日 出発の日
新生活のスタートの時期に合わせ、忙しく乱れがちな生活のリズムを整えるために、朝食を摂ることを提案する味の素株式会社が制定。日付は新年度のスタートの時期であり、4と8で「出発(しゅっぱつ)」と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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