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4月26日 プルーンの日
(いつもより少し長めです※2400字程度)
「病は気からって言うけれど、あれって本当なんだな」
小泉修也はそう言うと、袋の中から茶色や赤紫を濃く濃くしたようなその実を人差し指と親指で取る。感触を確かめるように2本の指押したり潰してみたりした。少しして、それを口に入れる。濃厚な果実の甘みと、ねっとりと柔らかな実はドライフルーツのそれとは思えないほどである。
病は気から、修也の言うそれが何に対して意味するのか分からず、ぽかんと小さな口を開けているのは野村大和である。
「え、何。風邪でも引きかけてたの?で、直ったの?気合いで?」
「いや、そうじゃないし、それは俺じゃない。でもって、何が関係するのかと言われると、ソレな」
指をさした先は大和の持つ袋である。
修也も大和も、手元にはあけたばかりのドライプルーンの袋があるのだ。まさかプルーンの話であるとは思わず何の気なしに、大和はもう1個口に頬張りながらコレのことかと目で問いかけた。
「そう、プルーンね」
そう言った修也の表情はどこかいたずらで、大和は妙な気を覚えた。
「なに、なんか盛った?」
「盛らねーし、盛れねーわ」
修也は笑い、大和は困惑する。その中で、うっすら思い出すものがあった。
ー1ヶ月前ー
「最近めまいがひどいんだよね」
「ああ、大和、時々言うよね。鉄分不足してるとか貧血なんじゃないの」
大和はこの頃、おそらくは貧血からくるのだろうめまいを頻繁に感じていたのだ。過去にも忙しい時に何度か経験しており、いつだって特別な処置をしない。今回はおそらく、来月に予定している取引先への商品プレゼンを控えており、その準備による忙しさが原因だろうと思われた。分かっているが、そのために病院に行く時間が惜しいと言うのが正直なところである。だったら繁忙期でない時にちゃんと病院にかかれば良いものを、そうもしないのが彼だった。
この性格は修也も分かっていることである。
「あ、そうだ。ちょっと待っていて」
修也はそう言うと、たった今出てきたばかりのコンビニに戻っていった。買い忘れだろうかなどとぼんやりと空を見上げながら大和は思っていた。こうしている間にプレゼン終わってくれないだろうか。そんな非現実的なことを思っていると、修也が戻った。
「これ、やるよ」
ずい、と渡されたのはプルーンだった。
「しっとりやわらか、大粒」
パッケージをそのまま読み上げ、修也を見る。
「プルーンって鉄分豊富って聞くからさ、貧血にも良いと思って」
大和はありがとうと礼を言い、そのまま袋をあけて一粒取り出した。確かに、しっとりやわらか大粒である。
「あ、うまい」
友人思いの友人をもって、自分は幸せものだと大和は思ったのだった。
さて、現在に戻る。
「え、まさかプルーン?」
疑うように修也に聞きながらも、一粒を摘むその指は止めない。口に放る。
「うん」
「え、何、病の気なの?」
大和は混乱からか病は気からも取り違える。
「いや、病は気から、な」
どっちでもいいわ!と心の中でつっこみながら考えるも何を思いこまされて、それで何が治ったのか分からない。
ギブアップ、そう言って小さく両手をあげて見せた。
修也は笑う。
「プルーンてさ、特別鉄分豊富なわけじゃないんだよね」
「え?マジで?!」
大和が驚くと、修也は頷き、そのまま補足した。
「うん、栄養豊富は実際そうなんだけど、よく聞く鉄分がすっごい入っている訳ではないらしい」
「えー!!俺、めまい治ったよ」
「うん、だから、病は気から。まぁでも鉄が含まれているのは確かだから、気だけでもないけど。もしくは他の栄養素で体の不調が整ったかだな」
大和の混乱はなかなか解かれない。
え、何で?それしか浮かばないのだった。
「いつか仕返ししたかったんだよ」
そう言った修也の顔はどこか勝ち誇ったような顔である。
「大和、香奈が俺のこと好きらしいって、言っただろう?俺と彼女が付き合う前に」
香奈とは、つきあって1年になる修也の彼女である。そして、彼女は今でこそ別の支社になってしまったが、3人とも同期入社で同じ支社配属の友人でもあった。
「ああ、言ったね。1年以上前の話だけど」
「そう、それだよ」
1年以上前のことを思い出してみるもなかなか鮮明には思いだせない。悩んでみせると、修也が説明してくれた。
「あの時、香奈は俺のことが好きだなんて言っていないらしい」
「そうだっけ。でも俺そう聞いたから修也にも伝えたんだけどなぁ」
「香奈が言ったのは俺の髪型がマシって言ったらしいぞ」
髪型と聞き、ようやっとぼんやり浮かび始めた。
そのときは確か、大和が美容院に行くと言う話を香奈としていた。どんな髪型がいいかと香奈に聞くと修也の髪型がマシかな、と答えたのだった。
「ああ!思い出した。髪型だわ。でもせっかくだし盛ってやろうと思って」
そう言いかけて口を噤んだ。
「ほら、それだよ!おまえのおかげで俺はその時から香奈が気になって気になって挙げ句2回も告白して、やっとつきあえて」
「いいじゃん、上手くいったんだから」
大和が口を挟むと、修也はぴたりと話を止め、深呼吸した。そして息を吸った後、吐き出すように言う。
「結婚することになったよ」
照れることもせず、あくまで堂々とした報告だった。
「え、え、お、おめでとう!!!」
混乱そのままに、ひとまず祝福を伝えた。
「だから、そのお礼と仕返しにこのプルーンをだな」
「回りくどすぎるだろう!なんだよ、病は気からっておまえのことじゃないか」
大和が言い返すと、修也はいたずらに笑った。
「でも、プルーンのおかげで健康になっただろう」
「それは、うん、そう。最近体の調子がいいんだよ。ジャンクフード控えて小腹すいたらプルーン食べるようにしていたら体重も少し減ってきたんだ」
そうだったそうだったと最近の体の好調っぷりを修也に伝える。
「鉄以外にも栄養豊富だからな、親友の体を思っての心優しいドッキリだったわけだよ」
その顔は確かに心優しい親友の笑顔だ。
優しさ溢れる親友は、ついには嫁もゲットしたのかと、大和は羨ましいながらも心から祝福する。
が、その裏では、結婚祝いを1年分のプルーンにしようと密かに計画し始めた大和であった。
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【今日の記念日】
4月26日 プルーンの日
世界ナンバーワンの生産・販売量を誇るプルーンメーカーのサンスウィートの日本支社であるサンスウィート・インターナショナル日本支社が制定。プルーンの魅力の伝えて販売促進につなげるのが目的。日付は2を「プ」6を「ルーン」と読む語呂合わせから。毎月26日を記念日としたのは、1年中美味しいプルーンを食べてもらいたいとの願いを込めてのもの。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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