9月20日 海老の日
神社の大きな賽銭箱の前、7歳の長女が願っていたことは『長生きできますように』だった。
祝日の今日は何の予定もなく、私と2人の娘は散歩に出かけた。夫は祝日も仕事があるために不在である。
その散歩道にある神社に行きたいと行ったのは長女の方だった。次女の保育園送迎のために平日も通る道ではあるが、時間が無いため神社に寄ることはほとんどなく、久々に神頼みも良いのではないかと思い、寄り道をする事にした。
「世界中の病気がなくなりますように」
長女が手を合わせて言った。小学1年生ともなると昨今の世の中をよく分かっているようである。
「ちぇかいじゅのうきがなくなりますように!」
姉のまねをして手を合わせた次女が唱えた。『ちぇかいじゅのうき』と言う平和の呪文であることを私はそのまま祈っておく。
皆が揃って祈り終え、帰ろうかと背を向けると長女が何か思いだしたように再び手を合わせた。次女もまねをして慌てて手を合わせる。
「長生きできますように」
そう言って一瞬目を閉じて、すぐに開いた。次女は元より目を閉じていない。
「いいよ!行こっか」
晴れやかなその顔はすでに長寿が内定しているようである。
思い出してみれば、今年の七夕の彼女の短冊も同様の願いだった。
「長生きしたいの?」
神社を後にし、私は歩きながら彼女に聞いた。
「だってさ、今楽しいからこのままずっと続いてほしいと思ってさ」
そうして、私とつなぐ手に力を込めた。彼女の視線は次女に向いており、優しく微笑んでいる。お返しにと次女もニィっと笑った。
「ずーっと今と同じまま長生きして続くってことも難しいかもしれないよ。今は子供だけどさ、もっとお姉さんになって、いずれはお母さんやおばあさんになるかもしれない」
私はまた意地悪なことを言ってしまった。
今を楽しいと感じてくれているならばそれで十分、私も嬉しいのだから、続くといいねくらいで返してやればいいものを。このままではいられないなどと大人げないことを言っているなと即座に自省した。
けれど長女はきちんと考えて返してくれた。
「そうだねぇ。将来ってよく分からないけれど、私のじいじもおばあちゃんもいつも楽しそうに笑っているから、だったら私も長生きしたいなって思うんだよ」
なるほどね。長女の方がもっと先を見ているのかもしれない。
そして思っているよりも子供は素直に育っているようである。
「よし、分かった!じゃあ今日の夕飯は海老の旨煮にしよう」
「何で海老なの?」
「海老って長い髭と腰の曲がっている姿が人間のおじいさんみたいに見えるから、そんな風におじいさんになるまで長生きできるようにって願いを込める食材なんだって」
私が言うと長女は目を輝かせてそうなのかと驚いた。次女はまた海老の真似なのかおじいさんの真似なのか腰を曲げて歩き出した。
「あ!!だから敬老の日でじいじとおばあちゃんたちに送ったお菓子も海老のお煎餅だったんだね!」
「その通り!」
毎年、敬老の日にはえびせんを贈っている我が家であるが、子供たちにも海老を食べさせて長寿を願おうと決めた今年の記念日である。
海老を買って帰ろう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【今日の記念日】
9月20日 海老の日
長いひげを持ち、腰の曲がった姿が凛とした老人の相に似ていることから長寿の象徴とされる海老。目玉が出ていて「お目出たい」といわれる縁起の良い海老。その海老を「敬老の日」に食べて、日本を支えてこられた高齢者の方々に感謝と敬意を表し、末永い健康と長寿をお祝いする日にと、愛知県西尾市の老舗の海老専門業者である毎味(ことみ)水産株式会社が制定。「敬老の日」には海老を食べるという新しい食文化を提案している。プレゼントには「エビせんべい」なども人気に。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。